「あなたたちは帰っていただいて大丈夫です」

「あの、私Aくんの友人のBという者ですが、今の電話は――」

「いえ、大丈夫です。わかりました。息子はそういう役割だったのです。これは私たちの預かり知らないところで定められた決まり事なので。今から私たちもそちらに行きますので、あなたたちは帰っていただいて大丈夫です」

 電話越しの年配の女性は事務的なことを淡々と告げるような口調でそうしゃべっていました。

「すみません! 今ちょっとこっちのバカが携帯を取っちゃって! いえ、大丈夫です! はい、はい、わかりました。はい、じゃあ僕らは失礼します。Aのこと、よろしくお願いします、はい、失礼します」

 固まるBさんから携帯を取り上げたEさんは、そう言ってパタリと音を立てて携帯を閉じると、Bさんたちに向かって言いました。

「じゃあ、そういうことだから帰るぞ。Aはもう大丈夫だからそのままにしておいて」

 理解不可能な言動を繰り返すEさんに一同は激しく詰め寄ったそうですが、彼はそんな一同の怒りを押し返すほどの凄みで「いいから、このまま帰るんだよ!!」と怒鳴ると、皆の肩をつかんで旅館から無理やり外に連れ出してしまいました。

 結局、両親によって無事旅館から救い出されたAさんは病院へ運ばれ、大きな怪我でしたが、後遺症もなく治ったそうです。

 かぁなっきさんはこの話をBさんから直接聞いたそうですが、その際に奇怪な言動を繰り返していたEさんについて深掘りしようと質問をしたところ、「Aの怪我は治ったんです。それでいいじゃないですか。あれ以上僕は深入りしてはいけないと思ったんです」と冷たく返されてしまったそうです。

「まあ、もう少し付け加えるなら――」

 話を聞いていた喫茶店の席を立とうとしたとき、Bさんは小声で続けました。

「Aの家もEの家も、今は黄色い紙が玄関にびっしり貼られているみたいですよ」

 あの廃旅館はその後なぜか急に解体され、今はもう跡形もないそうです。

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