「スーパーエキストラ」から俳優の道へ

――『ちっぽけな勇気』のどういったところが響いたのでしょうか。

 当時は誰が歌っているのかも、曲名すらも知りませんでしたが、「今現在やってる事が本当にやりたい事なの?」という歌詞がすごく引っかかって。「俺は誰かを蹴落としてまで上にあがりたいのか?」という考えが頭から離れなくて、それを機に現役を引退して、地元に帰りました。

 地元では新しい彼女もできて、「このままこっちで就職するのかな」と思っていたのですが、ふと「俺はこれまで必死にやってきたキックボクシングを、自分の中でちゃんと成仏させていないじゃないか」と、つらくなったんです。

 自分の名をあげようとか関係なく、これまでのキックボクシング人生にきっちりケジメをつけるために、「2年間限定」と決めて前田憲作さんが設立した「チームドラゴン」に入るため、再び東京にやってきました。

――そこでやっと、“スーパーエキストラ”時代が始まるわけですね。

 キックボクシングだけでは食べていけないのでアルバイトとして始めたのですが、ありがたいことに色々な現場からお声がけいただくことが増えて。いつの間にか「スーパーエキストラ」と呼ばれるようになっていました(笑)。

 とあるドラマのプロデューサーから「なぜ事務所に入って役者をやらないの?」と聞かれたときも、「エキストラ事務所には入っていますけど……」と答えてしまうくらい、当時は芸能界の仕組みを何も分かっていませんでしたね。

――ちなみに、格闘家時代からエキストラ時代を通じて、「最も怖かった経験」はありますか?

 人生でいちばん怖かったのは、キックボクシング中に相手のキックを受けて、睾丸が片方割れてしまったときですね。レントゲンを見たときのショックは一生忘れられませんし、「さすがにやめよう」と思いました(苦笑)。

 それから何年か経ち、映画『宮本から君へ』(19年)のオーディションを受ける機会があったんです。演じた真淵拓馬という役は、偶然にも主人公の宮本に睾丸を潰される役で。「本当に潰れたことがあるんです!」と実体験をアピールしたことでこの役を勝ち取れたのかもしれないですね(笑)。

一ノ瀬ワタル(いちのせ・わたる)

1985年7月30日生まれ。福岡県出身。プロの格闘家を経て、俳優の道へ。「HiGH&LOW」シリーズ(15年~)や『宮本から君へ』(19年)などを経て、Netflix配信ドラマ「サンクチュアリ -聖域-」の主演に抜擢。今年は『炎上』のほか、『キングダム 魂の決戦』(7月17日より公開)にも出演している。

『四月の余白』

全寮制更生施設「みらいの里」を運営する、元半グレで元受刑者の過去を持つ西健吾(一ノ瀬ワタル)。自身の体験を糧に、道を踏み外しかけた子どもたちに体当たりで向き合う彼だったが、体罰も辞さない更生方針は教育関係者から批判されていた。ある日、彼は中学校教師の冬子(夏帆)から、手に負えない生徒・海斗(上阪隼人)と鑑別所帰りの悠(和田庵)について相談される。海斗の激しい家庭内暴力に疲れ果てた母親は、息子を「みらいの里」に託すことを決めるも、海斗は施設でも寮生とトラブルを起こして脱走。さらに、傷害事件で逮捕されてしまう。

6月26日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
https://shigatsu-yohaku.com/

監督・脚本:𠮷田恵輔
出演:一ノ瀬ワタル 夏帆 上阪隼人 篠原 篤 占部房子ほか
配給:アークエンタテインメント

次の記事に続く 「イケメンでもないし無名なのに…」一ノ瀬ワタルが語る、...