「もう爪先まで見えちゃったんだよ!!」
絶叫するAさんが指差した2階を見るも、ドアは閉まったまま。
「一礼するっていうのはさ、礼儀とかそういうことじゃないんだよ! 頭上げたままだと見えちゃうんだよ!!」
なんとか皆を車に乗せようと右往左往するUさんをよそに、Aさんは依然血走った目で怒鳴り散らしていました。
「もうさっき爪先まで見えちゃったんだよ……どうすんだよ……くそ。さっきドア開いていて中に立っているのが一瞬見えて、危ないって思って頭下げたのに……もう目の前に爪先見えちゃってるじゃん……」
ブルブルと震える彼はついに涙まで流していました。
「目の前って……ドアの前で見たんじゃないの?」
戸惑うUさんの問いに、Aさんは誰も理解してくれないと言わんばかりの絶望の表情でシナシナと語気を弱めると、こう返しました。
「きっと幻覚だ……。でも、今も目の前に見えるんすよ……皆の足に紛れて、裸足の爪先がこっち向いてるんすよ……これどう説明つけるんだよ……」
自分たちしかいないはずの周囲に不穏な気配を感じ始めた一同。
この沈黙を見かねたE先輩は、不意にAさんの服を掴むと車に押し込み「帰るぞ!」と怒鳴りました。
「とにかく、全員頭下げろって!!」と再び車内からわめき散らすAさん。
その乱高下する異様な気迫に押されたメンバーの1人がつい建物に向かって一礼をしたのを皮切りに、皆次々と頭を下げ始め、Uさんも流されるがままに頭を下げたそうです。
1人、E先輩だけが抵抗していたそうですが、「こうでもしないとAのやつ帰らないっすよ! このまま騒いでいたら近所の連中に絶対警察呼ばれます!」という周囲の説得もあり、彼も最後にはしぶしぶ頭を下げました。
