かつて、日本の茶の間を恐怖と熱狂で支配した女性がいました。大粒の宝石を指に光らせ、神妙な顔つきで傲然と言い放つのは「アンタ死ぬわよ」「地獄に堕ちるわよ」。

 その名は細木数子。彼女が世を去って数年が経った今、Netflixがこの「女帝」の半生をドラマ化しました。タイトルはあまりに直球の『地獄に堕ちるわよ』。主演の戸田恵梨香さんが10代から60代までを演じきるという、野心的な一作です。

 しかし、本作は単なる成功者の伝記ではありません。物語は、伊藤沙莉さん演じるシングルマザーの作家・美乃里が、細木氏の自叙伝の執筆を引き受けるところから動き出します。

※この記事は、『地獄に堕ちるわよ』のネタバレを含みます。


一見、「男社会と闘ってきた女の一代記」なのだが…

 当初、美乃里が聞かされるのは、数子本人の口から語られる「自身の物語」です。焦土と化した戦後の闇市を基軸に、家族を養うため泥水をすすり、銀座の頂点へとのぼり詰める。政財界の黒幕たちの孤独に寄り添い、道を示してきた「慈母」としての半生。

 戸田さん演じる若き日の数子は、男社会の論理にねじ伏せられながらも、その瞳には「二度と貧しさに負けない」という気高いまでの野心が宿っています。美乃里は、彼女の圧倒的なカリスマ性に魅了されていきます。そこには、理不尽な戦後を生き抜いた一人の女性の「正義」があるように見えたからです。

 しかし、自叙伝を補完するために関係者への取材を始めたとき、黄金の神話は音を立てて崩れ始めます。

 美乃里が辿り着く彼女の裏の顔である「B面」の記録は、その陶酔を冷徹に引き剥がしました。特筆すべきは、数子と昭和の歌姫・島倉千代子(三浦透子)とのエピソードです。

次のページ 物語が一気に反転する構造が見事