物語が一気に反転する構造が見事

 戦後日本を歌声で癒やしたアイコン、島倉。彼女が周囲の男性たちの不誠実によって多額の借金を背負わされたとき、数子は「救済者」の顔をして近づきました。

 しかし、美乃里は数子から聞いた「献身的なサポート」という美談が嘘だという証言を得ることになります。島倉の興行権を握ることで実質的に彼女を私物化し、彼女の喉から絞り出される歌声を、文字通り金に換えて吸い尽くしていたことを知ってしまうのです。この証言をきっかけに、美乃里は作家としての信念から反旗を翻して、独自取材を開始します。

 数子が聖母のような微笑みを浮かべながら震える島倉の手を取る一方で、彼女を食い物にし続ける描写は、本作の象徴ともいえます。

 「実業家」としての勇ましさ、そしてその後の「占い」というスピリチュアルなヴェールの裏側で、いかにして個人の尊厳が破壊され、財産が剥ぎ取られていったのか。

 美乃里の脳裏は、当初の予定とは真逆の、被害者たちの悲痛な叫びで埋め尽くされていくのです。

 終盤で物語が一気に反転する構造も見事ですが、ここで私たちは、ある残酷な事実に打ちのめされます。それは、数子が語る真偽不明の「物語」があまりに面白く、抗いがたいほど魅力的だということ。

 序盤で描かれる彼女の半生も、まさに極上のエンターテインメントとして私たちの脳を揺さぶるものでした。

 現代の視聴者である私たちは、細木数子が「悪名高い人物」であることを知っており、彼女の語りが彼女に都合よく編まれた物語であることも理解しています。正直、最初は疑ってかかるような見方をしていました。それでも、戸田さんが演じる凄絶なまでの生命力を前にすると、そのナラティブの虜になってしまうのです。

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