「一礼しないから怖い目に遭うんですよ」

 中にいる誰かがこちらを脅かすために、別の貼り紙を押し付けたに決まっている……でも、その汚れ具合は何度も回って見た、あの外階段入り口の貼り紙そのものに思えてならない。そうだとしたら、突然部屋の中に貼り紙が移動したことになってしまう――E先輩はそんな思いが駆け巡ってUさんに確認させたというのです。

「お前ら、部屋の中入ってふざけたことしたりしてねぇよな……?」

「……いやいや、中に入って俺らが仕込めるわけないですって! そもそもどうやって気がつかれずにここ戻るんすか!」

「……だよな。もういい、帰ろうぜ。わけわかんねぇ……」

「一礼していないからですよ」

 E先輩の言葉に食い気味に言い放ったのは、さっきからずっと脂汗をかいてうつむいていたAさんでした。

「一礼しないから怖い目に遭うんですよ……俺はお昼にちゃんと下げましたからね……」

 ブツブツと語るAさんの口調は、いつもの先輩を立てるものとはかけ離れたぶっきらぼうさに満ちていました。

「お前らだよ……お前らが頭下げないからだよ!」

 突然、激昂したAさんがE先輩の胸ぐらに掴みかかったそうです。

「おい! 何すんだテメェ!!」

 そう凄んではいたものの、E先輩の表情は困惑しており、いつもの怒りは鳴りを潜めていました。

「ほ、ほら。もう戻りましょう! ここやばいですよ……。Aも――」

「頭下げないとなぁ、顔見えちゃうぞ」

「顔?」

「……チッ、だからドアが開いて女の顔が見えちゃうって言ってんだよ!!」

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