女性皇族として初めて、海外で博士号を取得された彬子女王殿下。そのオックスフォード大学での日々を綴られた『赤と青のガウン オックスフォード留学記』(PHP文庫)が、マンガ化されました。
3月25日に発売された『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』(彬子女王 原作 池辺葵 漫画/新潮社)の刊行を記念して、ジュンク堂書店池袋本店で行われたトークショー。もともと原作のファンだったという文芸評論家の三宅香帆さんが進行を務め、彬子女王殿下が留学時代のことや原作となった自著の創作秘話、マンガ化への感想など、多岐にわたってお話しになりました。
今回は、トークショーの様子を特別にご紹介します。
» 前篇はこちら
「最初の一文がすべて」読者を引き込む書き出しの魅力
三宅さん こんな言い方は僭越ですが、すごく文章がお上手でいらっしゃる。どうやって書くことを学ばれたのでしょうか。
彬子さま あらたまって学んだわけではないんですけれども、やはり子供の頃から活字中毒だったので、量はすごく読んできたからかもしれません。けれども、読むものが偏っているので……。
三宅さん お好きなジャンルがあるんですか。
彬子さま はい、小説なら時代小説ですね。現代の小説は、ある意味、作られたお話ですよね。私はやはり史学科の出身なので、物語として新しいことを考える場合も、証拠がなければそれを語ることはできないというブレーキがかかってしまって。
三宅さん 私の友達にも司馬遼太郎を熱心に読んでから史学科に入った人がいますが、学問として勉強したら全然違ったと。
彬子さま 結局歴史は勝者によって書き残されてきたものですからね。
三宅さん 愛読されていた作家さんの影響などを、ご自分の文章の中に感じることはありますか。
彬子さま どうでしょう。ただ、最初の出だしの一文だけは、かなり時間を掛けて考えるんです。やはり冒頭が面白くなかったら、この先も読もうと思われなくなるかなと。それは自分の経験上でもちょっと書店で立ち読みなんかして、「どういう文章だったらみなさんが引き込まれて読んでくださるのだろうか」「どんな感じで書き始めようか」とエッセイなどを書くたび、毎回の悩みますね。
反対に、終わってみるとなんだか想像と違う話になっていた、ということはよくあります。取材に行って、面白いお話をたくさんうかがって、「このお話は面白かったから絶対に入れよう」と思っていたのに、「あ、入れられなかった」(笑)。こんな展開にするつもりじゃなかったのに、と思ったりしますね。
三宅さん 『赤と青のガウン』も、本当に、一文目がすばらしいですよね。最新号の『波』(新潮社)で林真理子さんが書評を寄せていらっしゃいましたが、やはり一文目を絶賛していました。
本の中で、職人さんや同窓の学生さん、先生方……とたくさんの人物が登場されるんですけれども、そうした人々の描写が、ちょっとユーモラスで素敵だと思うんです。彬子さまが書かれた人たちがみなリアルに脳内で思い浮かぶんですよね。
実は人を描写することはとても難しいというか、ものすごい客観性が必要だと思うんです。『赤と青のガウン』でも実在する人物をエッセイに書くわけですから、相当の技量が必要だなと。彬子さまはそのあたりは苦労されましたか。
彬子さま そうですね。私は、自分が感じているその人の魅力、良さみたいなものはなるべく文章の中で表現したいなと思いますので、そこは意識しました。
うちの学生にもエッセイを書かせるときに言うんですけれども、やはり印象に残ったその人の言葉とかをワンフレーズでも入れるといいよ、と。すると「この人はこういう言葉でしゃべる人なんだ」と共感していただきやすくなるかな、存在をリアルに感じてもらえるのではないかな、と思うんです。また、読んでいる方が想像しやすくなるように、ビジュアルもなるべく表現して人となりが伝わるように工夫しています。
三宅さん 確か、ここに出ていらっしゃる側衛の〈シオダ〉さんについては、最初マンガで描かれたとき、「ちょっと違うかも」と思われたそうですね。
彬子さま 池辺先生が最初ラフで描いてくださった彼があまりにシュッとして男前だったものですから、「ちょっと、あまりにも、ちょっと違います」と、それだけはだいぶ変えていただきました。シオダはいろんな方から、「きょうはシオダさんはいらっしゃるんですか」と気にかけていただくことが多いので……。もう随分前に辞めているので、いないんですけれども、やはり相当印象的だったんだと思うんです。
三宅さん 私もエッセイを拝読したときに強烈に印象に残ったので、マンガに登場したときも「シオダさん、ちゃんといらっしゃる」と楽しくなりました。また、彬子さまと海外の方との交流についても、勉強や研究を通して、ある意味リスペクトし合いながらコミュニケーションしていく素敵さが詰まっていました。
作中にも出てきますが、オックスフォード大学での勉強の難しさはもちろんですが、〈チュートリアル〉という個人指導の授業で教授から「ある程度専門外の方にもわかるように伝えた方がいい」というご指導があったお話も興味深かったです。
文=三浦天紗子 写真=平松市聖
