妻と4人の子を残し34歳で…
帝大講師への転身を前に、出雲に帰省して夏の2カ月を過ごしています。出雲大社を再び訪ね、近くの稲佐の浜で遊びました。
八雲は3歳にもなっていなかった一雄を海辺に連れだし、セツが「かわいそう」ととめるのも聞かず、まずは海面に浮くことを覚えさせようとしました。でも、小さな波も怖がる幼子です。八雲はいらだち、
「あなた日本男児ないですか!」
としかりとばしたそうです。泳ぎの名人でもあり、それに日本国籍を取ってまもない八雲でしたから、日本男児の理想みたいなものを胸に抱いていたのかもしれません。
ちなみに、この稲佐の浜は旧暦10月10日に、全国の八百万の神々をお迎えする地として知られています。このことから出雲地方では10月を神無月ではなく神在月(かみありづき)と呼んでいます。現代でもこの頃の出雲は秋の行楽シーズンと重なって、とてもにぎわいます。
そして結核を患っていた親友、西田千太郎と会えたのは、この夏が最後になりました。半年ほど後に34歳の西田は妻と4人の子を残し、他界します。
「あのような善い人です、あのような病気参ります、ですから世界むごいです」
八雲は悲嘆に暮れました。
小泉 凡(こいずみ・ぼん)
1961(昭和36)年、東京都生まれ。成城大学大学院で民俗学を専攻し、87年から曽祖父・小泉八雲ゆかりの松江市で暮らす。小泉八雲記念館館長、焼津小泉八雲記念館名誉館長、島根県立大学短期大学部名誉教授を務める。著書に『怪談四代記 八雲のいたずら』(講談社)、『小泉八雲と妖怪』(玉川大学出版部)など。
聞き手 木元健二(きもと・けんじ)
1970(昭和45)年生まれ、大阪府出身。同志社大学法学部卒。94年、朝日新聞社入社。大阪本社学芸部、東京本社文化くらし報道部、週刊朝日編集部(いずれも当時)などに勤務。松江総局に 2021年から3年在籍した。

セツと八雲 (朝日新書)
定価 957円(税込)
朝日新聞出版
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