純烈ってこういう気持ちなのかなあって

――生徒さんたちは自分たちのことを「ヤスコチルドレン」と呼んでいると伺いましたが。

 そう、「ヤスコチルドレン」(笑)。

 今、全部でどのぐらいだろう。20人ぐらいはいるかな。みんな50代のオバサンなのに「ヤスコチルドレン」って名乗っています。

 これも最初、冗談で「ヤスコチルドレン」って言ったら、「私もヤスコチルドレンになりたいんです!」というオバサンがいっぱい来て、みんな私のことを「ヤスコ先生!」「ヤスコ先生!」と呼ぶんですよ。今、トークライブを3カ月に1回くらい、劇場を借りてやっているのですが、そこも、前2列は「ヤスコチルドレン」がファンクラブみたいに陣取っているんです。「いつもありがとうございます!」って言いながら、純烈ってこういう気持ちなのかなあって(笑)。

 「先生! 1列目取りましたよ!」って喋りかけてくるから、「こっちが喋ってるんだから喋るんじゃない!」って遮って言う。ちょっとコント入ってるんですよ。

――確かにコントですね(笑)。

 生徒さんら、みんな頭がいいのかな、よく空気を読んでくれるなと思って。でも、飲み屋の人が言っていましたが、常連さんが常連さんを連れてくるというから、最初に来てくれた人たちがとってもよかったのかな。そこから「こういう教室ですよ」ってことが伝わっていって、どんどん生徒さんが増えている感じで。

――口コミで広がっている感じなんですね。

 来てくれる人たちは、手芸が趣味の人もいれば、手芸が趣味じゃない人もいて、みんなそれぞれの仕事があり、それぞれのキャラクターがあるわけだけど、いつも言っているのは「この現場では偽善者を演じていいのよ」ってことなんです。

 「ヤスコのクラスではフレンドリーな優しい人を演じなさい。ディズニーランドだと思いなさい。ディズニーランドに行ったら耳つけるでしょ。はしゃぐでしょ。子どもでいることが正しいみたいなマジックにかかるでしょうが」って。

 いつもは仕事場でカリカリ目を吊り上げていて、そうじゃなきゃやってられないポジションの人が、うちのワークショップの場では、すっごい朗らかでおしゃべりな人に変身してもいいわけですよ。それを「整合性が取れてない」みたいなしょうもないこと言う人なんかいないんだから。

 そうやってここが居心地のいい場所になればいいし、それぞれで仲良くなってくれたらいいんです。

――「サードプレイス」ではないですが、暮らしの中に、自分の居場所をもうひとつ持つというのは気持ちを楽にしますよね。それを光浦さんはワークショップという場所を通して作っているのかもしれません。

 もうひとつ場所を持つことは本当に大事だと思います。私はそれがたまたまカナダだったけれど、海外に行くとかじゃなくていいんですよ。同じ趣味を持つ人たちと一緒に遊ぶとか、本当にそういうことでいいと思うんです。

 私も最初にカナダに来た時は友達もいない状態からのスタートだったから、コミュニティセンターに行って、英語を教えてくれるクラブを全部回ったんです。そしたら、そのうち、居心地のいい場所に出会ったり、同じような年齢とか感覚の人たちと出会ったりして、すごく仲良くなった。今では、先生も含め、英語クラブとは別にウォーキングクラブを作って、毎週火曜日2時間歩いています。

合格点が低くなったから、生きることがすごくラクになった

――2027年でワークパーミットが切れるとのことですが、その後もカナダに住みたいと思っていますか?

 カナダにいると、気持ちがラクなんですよ。だけどそれは、街を1人で歩けるとか、毎日公共の電車に堂々と乗れるとか、そういうことなんです。

 日本にいた時は、周りの目が気になって、すぐにネットで何か言う人たちもいるし、どこに行くにも隠れるようにして移動していたんですよ。でもカナダでは私のことを誰も知らない。匿名と匿名じゃないってこんなに違うんだなと思いました。

 ワークパーミットが切れても、その後は働かずビジタービザに切り替えればカナダで暮らすことはできるのですが、働く方が楽しいんでね。働くことって、やっぱり頭も使うし、ちょっとストレスがあるでしょ。そのちょっとのストレスが一番健康にいいんですよね。それを身体で感じるんですよ。

 で、昔みたいに完璧主義じゃないというか、自分ができなくて当たり前と思っているって、やっぱりいいですよ。合格点が低くなったから、生きることがすごくラクになったし。

――日本に戻るとしても、働き方が変わっていきそうですね。

 変わると思います。暮らす場所も、東京ではなく緑の多い田舎に住みたいですね。それでやっぱりワークショップを定期的に続けていきたい。居心地のいいカフェをやりながら、手芸のワークショップをやって、自分の作品もちょっと売って、姪っ子を働かせて、コーヒー屋さんだけど、香りが殺し合うカレーもあって……、とか、いろいろ妄想して楽しんでいます。あとはやっぱり本を書いていきたいですね。

光浦靖子(みつうら・やすこ)

1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。国民的バラエティー番組『めちゃ2イケてるッ!』のレギュラーなどで活躍。手芸作家・文筆家としても活動し、著書にエッセイ『傷なめクロニクル』『50歳になりまして』『ようやくカナダに行きまして』、手芸作品集『靖子の夢』『私が作って私がときめく自家発電ブローチ集』など多数。2021年からカナダに在住。

ようやくカレッジに行きまして

2022年8月、公立のカレッジのプロのシェフを養成するコースに入学したヤスコ。2年のコースを修了して卒業証書を得ると、PGWP(Post-Graduation Work Permit)というカナダで3年間働く権利を得られます。英語を上達させたい、将来カフェを開くための勉強をしたい、そしてカナダで働いてみたい。様々な年齢や人種のクラスメイトと一緒に授業や実習で学び、課題に追われる日々。そこでは想像を超えた肉体的疲労、人間トラブルが巻き起こり……。50歳から新しい挑戦をし続けるヤスコの、元気と勇気をもらえる最新エッセイ!

 

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