俳優は、言葉を持たない存在だと思う

 自然の中で高橋さんが研ぎ澄ませている想像力は、芝居ともリンクしている。自分ではない誰かの人生を演じる行為はもちろん、誰かが作った虚構の物語を鑑賞するという行為とも、密接に。

「僕、客席から鼻をすする音が聞こえるとほくそ笑むんです。芝居はごっこ遊びだと言う人もいるけれど、その人が泣いている事実は本当のことですから。説得力を持たせられたことに、胸がすく思いがするんです。一方で、人は芝居を観て理解できなかったと感じると、つまらなかったと否定する。それも、結局は想像力が足りないからなのではないかと思うんです。

 相手も人なんだと思えば、誰かが作ったものを簡単に否定はできないはず。他者は自分と同じ人間であると感じることができないから、ネットで炎上などが起きてしまうんだと思います。芝居だけでなくすべての事柄において想像力を働かせることができないと、人間は破綻してしまうのではないかと感じています」

 最新出演作は、野田秀樹さんが書き下ろした約1年半ぶりの新作舞台『フェイクスピア』。興味をそそられるタイトルだが、台本をもらうまでは、得意の想像力を働かせることはしなかった。

「ドラマや映画、舞台でも、台本をいただくまでイメージをしない癖がついているんです。ムダに想像したところで、一介の俳優が考えていること以上のものを提示されてしまいますから。シナプスはその部分には伸びていません」

 新しい作品に臨むとき、“課題”についても決めることはしない。

「課題決めをすると僕はだいたい見当違いをしてしまうので(笑)。それに、僕に声をかけていただいたということは、その時点で自分に足りないものがあるとも思っていないんです。

 そもそもお金をいただいている以上素人ではないですし、足りないものを求められているわけではない。成長したり勉強したいと思っているのであれば、そういう場所があるはずですから。25~26歳くらいのときから、そのことはしっかり自分の中で体系づけられています」

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CREA 2021年夏号
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