【い】 一徹(いってつ)
女子の性欲を喚起する王子様。
理想のセックス、お見せします
サイン会には装ったフツウのOL や主婦のファンが殺到し、本人が登場すると黄色い声があがる……。その熱狂の中心にいるのはAV男優。そんな光景を前にすると、時代は変わった! と痛感します。彼の名は、一徹。女性向けAVメーカー「SILK LABO」の作品に出演する男優=通称“エロメン”のなかでも絶大な人気を誇ります。
これまで男性のファンタジーを描き続けたAVの世界に、キラ星のごとく登場した王子様。“ゴールドフィンガー”として黄金期のAV業界に君臨した加藤鷹が2013年に引退したのと入れ替わるようにして、美形ながらどこにでもいそうなフツウっぽい雰囲気がウリの青年が女性の支持を得て台頭してきたのは、きわめて象徴的な出来事です。
彼の出演するAVの特徴は、セックスするまでの「物語」が丹念に描かれること。少女漫画のように甘く切ない物語のなかで展開される濡れ場に、多くの女性がハートを撃ち抜かれ、あるいは忘れていた官能を思い出し、欲望を喚起され、彼の虜(とりこ)となるのです。顔射や強引なフェラチオなどの女性がツラいプレイや、非現実的でアクロバティックな体位は、一切ナシ。耳元で「かわいいよ」「愛してる」とささやかれながらの挿入シーンの前には、必ずコンドームを装着する場面が登場する…というように、描かれているのは徹底して女性にとっての理想のセックスです。
ベッドのうえで男の思い込みを押し付けてくるだけの、浅黒いギラギラ男優になんて、私たちは欲情しない! 女性が健全な性欲を発露させはじめた時代のセックスシンボル・一徹に注目必至です。
2014.03.12(水)
文=三浦ゆえ、平成女子性欲研究会
イラストレーション=白根ゆたんぽ