この記事の連載
- “物語”のある素敵ホテル #1
- “物語”のある素敵ホテル #2
- “物語”のある素敵ホテル #3
- “物語”のある素敵ホテル #4
- “物語”のある素敵ホテル #5
クリエイターが愛した部屋、クリエイションが生まれたホテル。特別なアドレスでは、歴史を紐解いたり、アートの域の調度品を崇めたり。パリならではの創造の館に滞在すると、イマジネーションが無限に広がる。
今、泊まりたい“物語”のある素敵ホテルを5回に渡りご紹介。
モードの最前線を伝えた伝説の隠れ家ホテル
◆Hôtel San Régis(オテル・サン・レジス)
パリの楽しみのひとつは、とっておきの隠れ家を見つけ、そこに秘められた逸話を探ること。
“黄金の三角地帯”と呼ばれるパリ屈指の高級エリアにありながら、意外と知られていないサン・レジスは、まさにそんな願望も満たしてくれるホテルだ。
1857年に建てられた邸宅を受け継ぎ、1923年にホテルとして開業したサン・レジス。
すでにクチュール・メゾンが立ち並びはじめていたこの界隈で、戦後間もなくパリ出張の宿を探していた『ハーパーズ バザー』アメリカ版編集長、カーメル・スノウのアンテナに引っ掛かる。
クラシックかつシックな内装と親密な雰囲気が気に入った彼女は、ここのペントハウスを定宿とし、パリ滞在時のオフィスにもした。
折しも、すぐ近くのアヴェニュー・モンテーニュにアトリエを構えたのがクリスチャン・ディオール。
1947年2月、彼が発表した初のクチュール・コレクションにいたく感嘆したスノウがサン・レジスの部屋から発信したのが“ニュールック”の文字。今や辞典にも掲載されるこの言葉は、実は、このホテルで生まれたのだ。
一方、すでに同じ通りにスタジオを構えていたのが、写真家リチャード・アヴェドン。彼はスノウに会うためサン・レジスを頻繁に訪れたといい、ここで撮影したディオールのドレスをまとったサニー・ハーネットが誌面を飾ったのは1954年のことだった。
それから70年が経った今、ホテルを切り盛りするのは、現オーナーの令嬢ゼイナさんとサラさんの姉妹。
「宿泊客には、思い切りパリを感じてほしいのです。それも、古臭い印象は与えずに。そこで改修の際には、壁には街と調和する石灰岩を、カーテンやソファにはピエール・フレイの布地を使ったのです」と語るサラさん。
実は彼女もディオールとの繋がりをもち、6年にわたってファインジュエリーのマーケティングに携わった。
なお2024年2月中旬からapple TV+では、クリスチャン・ディオールを主人公としたオリジナルドラマ「The New Look」を配信する。
スノウ役を演じるのは、グレン・クローズ。サン・レジスがストーリーにどんな形で登場するのか、それは見てのお楽しみだ。
Hôtel San Régis(オテル・サン・レジス)
所在地 12 rue Jean Goujon 75008 Paris
電話番号 01 44 95 16 16
客室数 42室
料金(1室) 460ユーロ~
https://www.hotel-sanregis.fr/
Column
CREA Traveller
文藝春秋が発行するラグジュアリートラベルマガジン「CREA Traveller」の公式サイト。国内外の憧れのデスティネーションの魅力と、ハイクオリティな旅の情報をお届けします。
2024.01.30(火)
文=乗松美奈子
撮影=橋本 篤
編集=矢野詔次郎