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大人たちの章が難しかった

 結末を知ってから読み直してくださったことで、あのスピード感と焦燥感につながったのですね。すごい! ミステリはどうしても時系列が複雑になるので、難しかったと思います。

のん 時系列もですが、大人の人たちの章が難しかったです。あ、いえ、全部難しかったんですけれど、特にあげるならば、ということです。

 子どもの視点で描かれた部分は、思考が言語化されているので、理解できるんです。でも大人って言わないことが多くなったりする。たとえば、章子たちの小学校の担任だった篠宮先生のエピソードでは、書かれている事柄だけではわからないところが多くなるんです。それをどうやって読み解くかというのが難しかった気がします。 

 ああ、でも、いちばん難しかったのは、章子のお母さんかもしれません。お母さんの本心というか、どういう答えを出してお母さんが今ここにいるのかとか、お母さんの中でも揺れてる部分がかなりあったので、その解釈がいちばん難しかったですね。

 そうやって1人ずつていねいに、どういう思考に基づいてこの動きをしていてこのセリフを言うのかを深く理解し、納得してから読んでくださったのですね……。

 普段読書をするときには「この人は脇役だからそんなに理解を深めずに読み進めてもいいかな」と思うこともあります(笑)。でものんさんは、視点人物ではない人物の気持ちも理解しようとして言葉を紡いでくださった。だからこそ、ただ文字を追うだけでは出てこない「生きている言葉」になったのだな、と納得しました。

 『未来』は私の作品の中でもいちばん長いんですけれども、本当に一文字一文字を大事にしてくださって、すべての登場人物に思いを寄せてくださったことに、すごく感動しています。こんなに作品に真摯に向き合っていただけて、作家冥利に尽きます。ありがとうございます。

2023.11.17(金)
文=相澤洋美
撮影=深野未希