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絶望の中でも希望は捨てない

「20代の頃は、レゲエの神様のボブ・マーリーや、精力的に平和運動を行なっていたジョン・レノンのような、世界を変えてくれそうなヒーローに強い憧れがあって、僕自身も、『世界を変える!』ってことに、馬鹿正直に向かい合っていたと思います(苦笑)。でも、ある時期から、『なんかこれ、戦い方が違うな』と思い始めて……。もちろん彼らのことは今も好きですが、本当は、ヒーローの登場を願うのではなく、一人一人が自身の中にあるボブ・マーリーとかジョン・レノンを目覚めさせないと、世界は変わらないと気づいたんです。

 結局、世の中が変わらないのは、世界の生きづらさを他人任せにしてる我々のせいだった。そう気づいたときに、『まずは自分と自分の周りが幸せじゃなきゃ何も始まらないんだ』『自分が変わらなかったら、自分の周りも変わらないんだ』って考えを持つようになった。ヒーローを待つんじゃなくて、どんな些細なことでも、できることから始めればいい。そう気づいてからは、声高に何かを叫ぶようなことはなくなりました」

 子供が生まれてからは、今のこの美しい地球を、一体どの代まで残せるのだろうか、と心配になることもしょっちゅうだ。でも、時代や政治に文句を言うつもりはない。

「我々にできることは、このアニメを観て、手塚先生のメッセージを受け止めて、1人1人が変わっていくことだと思います。僕、最近、コンポストを始めて、生ゴミが出なくなったんです。そんなこと、地球にとっては屁の突っ張りにもならないかもしれないけど、もし70億人がそれをやれたら変わるよね。

 実際、手塚先生の作品でも、無限にタイムリープする作品は、未来に近づくにつれ、少しずつ状況がいい方へと変化していく。つまり、『僕らは未来を変えられる』というメッセージが組み込まれていると思うんです。だから我々も、手塚先生を見習って、『絶望の中で希望を捨てない』という生き方をしていけばいい」

2023.11.02(木)
文=菊地陽子
撮影=平松市聖
ヘアメイク=佐藤修司(Botanica make hair)