◆「人には言えないようなことを書く、そして読む」のが小説の醍醐味

島本 楽しさや明るさと同時に、今回の作品では死について考える場面がかなり出てきますよね。そもそも主人公の二人が旅行に出かける理由は、サブレの遠い親戚が自殺して、その方の家族に会って話を聞いてみたいと思ったから。一見不謹慎な動機なんですけど、死に関心を持つことって本来、すごく噓がない正直な感情ですよね。私は十代の頃に映画の『スタンド・バイ・ミー』が好きだったんですが、あちらは森の奥にあるらしいと噂される死体を探しにいく男の子たちのお話です。映画の中では、死体を見つけてニュースになって、有名になりたいという動機もありつつ、純粋に死体を見てみたい、未知の死というものに触れてみたいという欲求が印象的に描かれていますね。

 
 

住野 僕も、もともと死についてよく考える子どもでした。だから今でも死が何かというのを考えたり書いたりしています。死の話題って様々な角度のものがあるし、何より誰も本当はなんなのか理解していないじゃないですか。だから付随する感情も悲しい一色じゃない。そういう死に対する一筋縄ではいかない複雑な心情や考え方を、めえめえとサブレに探ってみてほしいなと思ったんですよね。

島本 めえめえが途中で、死についての自分の思いを正直にポロッと言う場面がありますよね。あれは私、結構な割合で多くの人が持っている心理だと思っているんです。それを言葉に出すと、ひどい奴だと思われて、相手との関係性が崩壊するかもしれないので、十中八九、皆、言葉には出さないですけど、じつは共感する人も多いのではないかと。

住野 僕は言っちゃいけないような不謹慎をどう表に出すか考えるのが好きなんですよね。やっぱり一番の不謹慎は死で、そこにどうにかユーモアや幸福を足せないのか苦心しています。

島本 死をタブー視しすぎれば、表現できないことだらけになり、ただ怖いものになってしまう。人には言えないようなことを書く、そして読むというのが小説の醍醐味でもありますよね。それは死を軽んじることとはまた違って、できるだけ目をそらさず向き合い続けることが、小説を書くうえで自分が大事にしたいと思っていることなんです。だから読者に噓をつかない、ということも意識しています。ここは感動する場面だからといって(登場人物の本当の気持ちとは違うけれども)「好き」って言わせてしまうと、どんなにきれいな話でも、読んでるほうは噓に絶対気づくと思うんです。

2023.04.14(金)
構成=吉田大助
撮影=佐藤亘