ちなみに『本懐』に於ける織田信長が主役の短編「応報腹」では、本書とはまた別の本能寺の変の解釈が描かれている。未読の方はぜひとも、本書と併せてお楽しみいただければと思う。

 さて冒頭でも書いたように、上田先生はご自分に厳しい方だ。

 高いところに理想を掲げ、それに向かって妥協することなく、原稿用紙を一文字一文字実直に埋めておられる。きっとこの先どれだけのものを書き上げようとも、「これで充分」と満足なさることなどないのだろう。

「上田秀人先生の著作100冊突破を祝う会」が開かれたのは、たしか二〇一六年の初夏のことだった。さらなる年月を経て、今はいったい何冊になっておられるのか。たとえ著作が二百冊、三百冊を超えようとも、先生の情熱は尽きないはずだ。

 だからどうか我々が「不死身なのではないか」と震撼するくらい長生きをして、やり残したことや執着に喘ぐ人間の物語を、鮮やかに描き続けていただきたいものである。

 そのためにはどうかどうか、お体を大事になさってくださいませ!

 二〇二二年十月某日  不肖の後輩より

2022.12.28(水)
文=坂井 希久子(作家)