——実際、河﨑家の状況と、小説内の猿渡家の状況はまったく違いますね。本作の主人公、琴美は5年前に母親を交通事故で亡くしています。父、義純よしずみは脳卒中の影響で、下半身に麻痺が残っている。人に頼ることが苦手な父はヘルパーさんを呼ぶのを嫌がり、「雪かきに来てくれないか」と言って琴美を札幌の実家に呼び戻すんですよね。

河﨑 ええ、そうです。まず、介護する側として自分とは違う価値観の人、介護される側としてうちの父とは違う状況の人をそれぞれ描こう、というのは決めていました。たとえば、ご本人やご家族によっては外部に助けを求めることに抵抗を覚える方もいらっしゃいますよね。そういう頑固なお父さんが子供を呼び寄せたいとなった時、最初に何を頼むのだろうかと考えたら、北海道の一戸建ての家なら雪かきだな、というイメージから物語を膨らませていきました。

——琴美は東京で特にやりたいことがあるわけでもなかったので、父の要望に応えて仕事を辞め、札幌に帰ってくる。親子仲が決定的に悪いわけではないけれども、琴美は父親の言葉や態度にしばしば傷つく。父親のために実家に戻ったのに「独身なのに家でダラダラして」などと言われていて、私だったらキレそうです(笑)。

河﨑 家族に対してはどうしても、相反する感情ってあると思うんです。東京から帰ってきてくれてありがたいという感謝の念と、傍にいたらいたで「この子ときたら」ともどかしく思う気持ちと。その両方を表に出してしまうのは、歳をとった父親としてはありがちかなと。とりわけ、つい兄弟姉妹と比較してしまう、などというのはよくありますよね。

——そう、琴美にはアメリカに住んでいる美紅みくという妹がいるんですよね。幼い頃から、美紅は優秀なのに琴美は駄目だ、といった空気を父親から感じている。そんな琴美と、一時帰国した美紅が介護に関してぶつかる場面もあります。

河﨑 実際に介護をされている方の事例をうかがうなかで、家族間でも介護に対する温度差はあって、それは当事者にとっては非常に大きな問題になるのだろうと感じました。娘から見た父親という視点だけでなく、兄弟をはじめとしたほかの家族への感情など、ひとつひとつ手探りで書きこんでいきました。

2022.12.23(金)
インタビュー・構成=瀧井 朝世