須崎功の役作りと諺「三つ子の魂百まで」

――本作は48歳の小鳥がドリームポニーに転職してくるところから物語が始まります。杉野さんも年上のスタッフの方や先輩俳優さんと共演されることが多かったかと思いますが、仕事をするうえで影響を受けた先輩とのエピソードを教えてください。

 色々ありますが、それは自分の中で大切なことでいつまでも心の中にしまっておきたいので、あんまり言いたくないのが正直なところです。

 でも、デビュー後に色々悩んで自分を探していた時期に、先輩方から「あの子、いいね」と言っていただいたことはとても励みになりましたし、「自分のやってきたことは間違っていなかった。もうちょっと頑張ってみよう」と思える力になりました。

――本作の岩崎プロデューサーが「杉野さんは『須崎はこういう人なんじゃないか』と、多方向から組み立ててくださっています」と仰っていましたが、杉野さんがつかんだ「須崎」像を具体的に教えてください。

 「須崎功」を生きるにはどうすればいいのかを考えて、皆さんと一緒に撮影しながら役作りをしていきました。

 例えば、須崎はお金のことでは何不自由なく生きてきた役どころなので、着ている服もオシャレという設定なんです。そうやって多方面から須崎のことを考えてみると、「親への思い」というのが彼の根底にあるんじゃないかと見えてきたんです。

 人って、家庭環境から形成されるところが大きいと思うんです。須崎は昔から自分を律してきた人だから、自分が「だれかを支えて助けることができる」ことも理解しているんだろうな、と演じているうちに分かってきました。

――親との関係性が今の自分の生き方や考え方に良くも悪くも影響していることってありますよね。

 「三つ子の魂百まで」ということわざがあるじゃないですか。それが今になってすごく腑に落ちるというか。人間としての大部分が形成されるのは、確かに3歳までだなって思います。

 このあいだ、知人から面白い話を聞いたんです。ある神社では、子どもが3歳になるまで親は(子どもの行動に)口出ししちゃいけないという神様のルールみたいなものがあるらしいんです。それを聞いて「理にかなっているな」と思って。

 親が子どもを叱ったり怒ったりするのって結局は親の価値観やエゴで、子ども自身の「良い、悪い」の基準に対しては、だれにも叱る権利はないと僕は思います。そこで植え付けられた考え方や価値観でその後の人格が形成されてしまうこともあるのかなとか、色々考えるところがありました。

 今回演じる須崎はそれが顕著に表れていて、子どもの頃に植え付けられた親の価値観に当てはめられて生きている人。そこの部分は大切に演じたいなと思っています。

2022.07.01(金)
文=根津香菜子
撮影=釜谷洋史