しんどさを乗り越えて「早く次の現場に入りたい」

――現場で演じているときの感覚はどうでしたか。例えば、『惡の華』なら「死ぬ気でやった、しんどかったがやりがいがあった」、『デメキン』なら「青春のように楽しかった」などこれまでお話されていましたよね。『冬薔薇』での心持ちを表現するのなら?

 ぶっちゃけると、めちゃめちゃしんどかったです。めちゃめちゃしんどかった……けど、そのしんどさがすごく楽しかったというか。矛盾しているんですけど、久しぶりのしんどさを感じながら、ひとつの作品に向き合っている時間というものが最高に楽しかったんです。だから撮影が終わった後、「早く次の現場に入りたい」と思うようにもなりました。

――伊藤さんの言うしんどさとは、完全に役と向き合っている時間のことですか?

 それもあります。僕、基本的にそんなに役を引きずらないタイプで、衣装を脱いだらすぐ自分に戻れるんですね。

 けど、今回は撮影期間の1か月くらい、ずっとホテルで生活をしていたんです。自分の家に帰るわけでも、友達と会うわけでもないので、別に(役を)抜く作業は必要ないと思って。だから、基本的に自分の中に淳の人格が常にいる状態でいました。淳の置かれている境遇を毎日考えてしまって、それがしんどかったのかもしれないです。

――1か月間ずっと、伊藤さんの中に伊藤健太郎と淳が混在している状態だったと。

 そうなんです。撮影中、マネージャーさんから電話がかかってきたときも、ちょっと変な感じがあったと思うんですよね。もちろん自分は自分でちゃんとあるんですけど、どこかに絶対淳の人格が常にいる状況、そこでのしんどさがありました。

(マネージャー談:確かに、そう言われればいつもの感じよりはトーンが低いというか、テンションが低いというのか、という感じでした。元気に話をしているんだけど、なんか「大丈夫?」という感じで)

 そうそう、あのとき連絡するたび「大丈夫?」と聞かれていました。ずっと息しづらい感じがあって、「このままいきすぎるとやばいな」みたいにまでなってしまったりもしました。

――「やばい」となったとき、どう対処したんですか?

 山の上にあるホテルだったから、ばーっと走って下っていって海を見て、夕陽が落ちるのを眺めていました。すっごいキレイなんですよ。それを見て、「よっしゃ、明日も頑張ろう!」と思ってホテルに帰っていましたね。今思うと、そのきつさが淳というキャラクターに対して、すごくいい形で反映できたんだと思います。(【つづきを読む】「よくも悪くも自分のいる場所がなくなってしまった感覚は、自分も理解できる部分があった」)

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伊藤健太郎(いとう・けんたろう)

1997年6月30日生まれ、東京都出身。モデル活動を経て、2014年にドラマ「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」で俳優デビュー。ドラマ「今日から俺は!!」、「スカーレット」、映画『デメキン』、『コーヒーが冷めないうちに』、『惡の華』など話題作に多数出演。

『冬薔薇(ふゆそうび)』

2022年6月3日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー

脚本・監督:阪本順治
出演:伊藤健太郎 小林薫 余 貴美子
眞木蔵人 永山絢斗 毎熊克哉 坂東龍汰 河合優実 佐久本宝 和田光沙 笠松伴助
伊武雅刀 石橋蓮司
https://www.fuyusoubi.jp/

2022.05.28(土)
文=赤山恭子
撮影=山元茂樹