さすが料亭旅館。和ろうそくから始まる食事処の粋なおもてなし

 食事処には、和ろうそくの炎がゆらめく粋な灯りの演出が。「コロナ禍前はフランスのお客様が多かった」(女将)そうだが、この建物と料理のすばらしさは、日本の人にこそ味わってもらいたい。

 食事が始まれば蛍光灯の灯りが点くが、それでも一般的な食事処よりは暗め。薄明りの中で、日本家屋ならではの落ち着いた雰囲気を味わうことができる。

 飛騨古川には、200年以上続く和ろうそくの店「三嶋和ろうそく店」があるから、翌日に和ろうそくづくりを見学してみるのもいいだろう。

 料理は春らしく、桜の花がパッと開いたような華やかさ。八寸で出てきた飛騨のブランド牛・飛米(ひめ)牛は、飛騨の食材の奥深さを感じさせる味わいだ。

 メインは、発芽にんにくやこごみ、スナップえんどうなどの野菜をたっぷりと使った、飛騨牛のミニステーキ。野菜は何カ所かある自家農園で育てた低農薬のもので、農園では堆肥から作製、循環型の宿づくりを目指している。

 お造りは海の魚以外に、水のきれいな当地の地下水で育てた「飛騨とらふぐ」を使用。

 そしてお凌ぎは「河ふぐ桜寿司」。河ふぐとは飛騨地方ではナマズのことをいうが、まったく泥臭くないのも、地下水がきれいな立地だからだろう。

 水がおいしい土地柄ゆえ、ご飯はつやつや、ぴかぴか。お代わりしたくなるほどおいしい。しかも、夕食は飛騨ひとめぼれ、朝食は飛騨コシヒカリと異なる銘柄を味わえる。

 デザートは、春をイメージした器に盛られたスイーツ2種。随所に飛騨らしさをちりばめた季節感を感じる料理は、四季折々に訪ねたくなる。

 そういえば、地下水が豊富な場所だからであろう、飛騨古川には酒蔵が2つもある。日本酒の利き酒や酒造見学もぜひ体験してほしい。

文・撮影=野添ちかこ