アカデミー賞の視聴率が一番高かったのは90年代から00年代初頭で、『タイタニック』があったり『ロード・オブ・ザ・リング』があったり、誰もが観た映画がノミネートされ、ワクワク感があった。ところが、だんだんと娯楽大作系は避けられるようになり、09年、『ダークナイト』がアメリカで大ヒットしたのに肝心の作品賞にノミネートされなかった。

 当時、作品賞は5作品に限られていたのがその理由だと、翌年から枠を10作品に広げたんです。でも、ヒット作がなかなか入らない。今回もそう。昨年、アメリカで一番ヒットしたのは『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。全米興行収入880億円突破の史上最大規模のヒット作なのに。

 

―作品賞に入ってない。

町山 だって、アメリカ以外の人にとって、全米ヒットは関係ないですもん。つまり、『パラサイト』が作品賞を獲ったということは、アメリカの映画労働組合の賞だったアカデミー賞が世界の映画賞になったということで。アメリカのヒット作でお祭りをするというアカデミー本来の独自性がなくなってしまったんです。

実はアート系作品のほうが、多様性に乏しい

―難しい局面ですね。

町山 あと、今年から作品賞の候補作について設けられた新しいレギュレーションがありまして。それは、女性やLGBT、アジア・アフリカ系や外国人などが、主要な出演者に入っているか、スタッフに入っているか、映画の題材になっているか、それらがどの程度の割合なのか、そういった細かい条件をつけたんです。これはやっぱり、アカデミーが労働組合の賞であることと関係していて、雇用の改善や均等化をハリウッドは推し進める、それをアカデミーは後押しする、という動きなんです。

 ただ、実は、アート系作品ほど関わる人数が少なく小さな話だったりするので多様性に乏しく、娯楽大作のほうが出演者もスタッフもストーリーも多様性に富んでいる。というのも、アメリカの白人の割合は60%を切り、多様性がないとお客さんが入らない。だから、アカデミーが目指すダイバーシティは娯楽映画にあるはずで。

2022.04.02(土)
文=辛島いづみ