我が子を育てるように藍を育み
“藍の華”を咲かせる若き職人

◆藍屋テロワール

 手首から爪の先まで藍色に染めて現れた主宰の藤井健太さんは、前職の際、休暇でたまたま参加した藍染体験がきっかけで藍のナチュラルな美しさに開眼した。

 そもそも藍染は分業制で、藍の栽培、染料の素になる蒅(すくも)作り、染液作り、糸や生地の染色は別々に行う慣わしだが、藤井さんはすべてを担う。前職を辞めて藍染の本場・徳島での修業後、今では畑で藍を育て、工房には藍染液を10槽構えるまでになった。

 仕事の大半は農作業。春に種を蒔き、真夏に葉を収穫し、冬には乾燥葉を発酵させて染料となる蒅に仕上げる。

 “藍神様”が宿るという土間の“寝床”で、大量の乾燥葉にムシロを被せ、週に1回“切り返し”と呼ばれる作業で水を打ったりかき混ぜたりを18回繰り返す。目に見えない微生物たちによる発酵の働きがうまくいくよう、毎回藍神様に祈るような気持ちになるという。

 このように手塩にかけて発酵させた蒅に灰汁や貝灰などを加えてようやく藍染液となる。微生物が働くこの液は、良い状態なら“藍の華”を咲かせるが、人間と同じで寒さや空腹に弱く、働かせすぎると疲れて発色しなくなる。冬場には電気毛布でくるんだり、エサになるフスマを与えたりして、我が子同様に手厚く世話を焼く。

 藤井さんの藍が深く美しい色を放つのは藍への愛にほかならない。

藍屋テロワール

所在地 広島県福山市山野町山野3410
電話番号 080-2905-8845
https://aiya-terroir.com/
※工房見学はホームページ参照

文=CREA編集部
撮影=佐藤 亘