空港に降り立つ、赤いスーツケースの軍団

 

――ジャパン・ナショナル・オーケストラは、みんなでリモワのスーツケースを持っていらっしゃるそうですね。

「ジャパン・ナショナル」っていう名前も、サッカーの日本代表みたいにしたかったからなんです。サッカー選手の一団が帰国して空港を移動している時に記者が集まってくるみたいなシーンをニュースでよく見ると思うんですが、ずっとかっこいいなと思っていて。オーケストラのみんなで、目立つ色のスーツケースを持って、同じスーツを着ようと考えました。

 それで移動していたら、あの軍団は何だろうって宣伝効果にもなる。楽器を背負っていると、「ライフルですか?」ってよく言われるんですけど、わからない人から見たら完全に怪しい人たち(笑)。でも有名になって、ジャパン・ナショナル・オーケストラだ! みたいな空気になったらいいですよね。

 メンバーはいま18人なんですけど、スタッフも入れて25人にリモワの赤いスーツケースを支給して、ネームタグにもJNOのロゴを入れたんですよ。

 

――もともと、リモワのスーツケースを愛用されていたと伺いました。

 ホールに合わせてピアノをセットアップしてもらうので、調律師さんと話す機会も多いのですが、調律師さんってかなりの確率でリモワを持っているんですよ。丈夫だし、サイズ感もちょうどいいから、と。それに影響されたのもあって、リモワを買い始めて、今では5、6個ほど持っています。

――初めて購入された時のことは覚えていますか?

 初めて買ったのはドイツでしたね。やっぱりリモワに憧れていたんです、大人の象徴的な魅力があって。それから1年半に1度は買っていますね。

 最近買ったのは2カ月前。黒い四角いタイプで、6対4の割合で開くから、広い方に靴、狭い方にスーツを入れるんです。不思議なことに、スーツケースって人の思いを荷物という形に変えてくれるものですよね。詰め込んだ思いも一緒に旅先に持っていくというか。

――スーツケースって、使っている人の個性が出ますよね。

 使い込むほど人柄が出ますよね、それを見るのもおもしろい。最初はゴールドを買ったんですけど、塗装が落ちて銀色になっていくのも味があって良かったです。

 あと、リモワを持っている人あるあるですけど、空港で貼られるバーコードのシールを剥がしたくないという人も多いですよね。リモワは旅のイメージそのもので、シールやステッカーの数だけ思い出になる。

 

さらなる熱狂を求めて、指揮者の道へ

――歴史あるクラシック音楽ですが、これからどのように変わっていくと思いますか? 

 3年前にとある番組に出演した時に、「来年のクラシック音楽界はどうなると思いますか?」と聞かれたんです。

 「国を跨いでインターネットを使ったコンサートができたり、プロジェクションマッピングなど現代アートとのコラボレーションもあるのではないか」と答えたら、場が静まり返りました。その時は何を言っているんだっていう空気で。

 でもコロナ禍になって実際に急増しましたよね。来日できない指揮者が海外で指揮をとるビデオに合わせてオーケストラが演奏したり、もはや奏者がホールにひとりも来ず、それぞれが収録したものを融合させるということもある。遅かれ早かれ絶対に来ると思っていたことなので、どんどん取り組んでいきたいなと思っています。

 雇用的な面からはあまりよくないかもしれないけれど、こういう時代に入っている事実から目を逸らしてはいけないし、いまから少しずつ変えていかないといけない。でも音楽は最終的にはオフラインが最強だし、やっぱり生のコンサートに勝るものはない。

 旅だってそうですよね。映像で満足する人もいるかもしれないけど、リアルのほうが圧倒的に良いわけで、クラシック音楽にも同じことが言えますね。

――反田さん自身、これから考えていることはありますか?

 クラシック音楽を好きになったのは、子どもの頃にワークショップでオーケストラの指揮をさせてもらったのがきっかけだったんです。12歳の男の子がピッと指揮棒を振ったら60人の奏者が音を鳴らしてレスポンスしてくれるという、その経験に感動したんですよね。クラシック音楽ってかっこいい、と初めて体感しました。ベッカムのひと蹴りで世界が熱狂するとまではいかないけれど、同じような衝撃を覚えましたね。

 その時の先生に「指揮者になるためにはどうしたらいいですか?」って聞いたら、「楽器をひとつちゃんと勉強しなさい」と言われたんですね。「ピアノはオーケストラのすべての音を出せる唯一の楽器でもあるから、勉強したらきっとヒントになる」とも言われて、それでピアノを究めようと、ここまできた感じですね。

――当初の指揮者という道に、これから本格的に進まれるのですね。

 ピアノの経験をこれからに生かせると思うし、まだまだ答えのない世界で勉強しなければならないと思います。ピアノをやりながら、小さい頃から憧れていた指揮者の道を目指すという、二刀流の勉強をしていきたいなと思っています。

 ウィーンで指揮者の先生が見つかったんですが、ショパン研究者にもなってみたいし、ポーランドの学校も続けていくことを決めました。ふたつの地域を行ったり来たり、拠点にしながらヨーロッパを周れたらいいなと思います。リモワを持ってね(笑)。

反田恭平

1994年生まれ。2014年チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院を経て、F.ショパン国立音楽大学研究科に在籍。毎年定期的にリサイタルやオーケストラとのツアーを全国で行い、チケットが取れないピアニストと評判。2021年、ショパン国際ピアノコンクールで2位を受賞。オーケストラの会社、ジャパン・ナショナル・オーケストラを設立する。

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2021.12.24(金)
文=鈴木桃子
撮影=角田航
スタイリング= 于洋
ヘア&メイクアップ=伏屋陽子