防災をポジティブに!カギは決断力・想像力・アレンジ力

「なんで防災ってネガティブにとらえる人が多いのかな。命が助かるためのことだから、私はハッピーなことだと思うんです」と明るく笑う辻さんは、レスキューナースとして災害現場で活躍するだけでなく、阪神・淡路大震災、大阪府北部地震で2度被災した経験があります。

 しかし、災害対策をしっかりしておいたおかげで、大事に至らずに済んだとのこと。そんな辻さんの考える防災は、決してお金がかかるものでも難しいものでもありません。

 カギとなるのは決断力・想像力・アレンジ力の3つ。これは、普段の生活の質を上げるのにも役に立つのだと辻さんは言います。

「非常時となると、人はパニックを起こしてフリーズしてしまうもの。そこで必要となってくるのが決断力です。その場に留まるのか、逃げるのか。何をしたらいいのか、すぐに決断することが被災現場では必要となってきます。普段の生活でも、自動販売機で何を買うか、3秒で決める練習をしてみてください。決断力のある人って、職場でも頼りがいありますよね?」

 想像力とは、いざ被災したときに何が必要になるかをイメージすること。先ほどの「地震10秒診断」などを使って、家具の防災対策や備蓄について家族で考えてみるといいかもしれません。

「災害が起こったらどういう事態になるかを想像する。そして、そうなったらどう対応すればいいかを考える。一歩先のことまで普段から想像することが大事です」

 ライフラインが使えなくなったら……。家具が倒れたら……。想像力を働かせ、不測の事態が起こっても落ち着いて過ごせるように準備しておくのがポイント。これもまた、仕事の上でも生かせるアドバイスです。

防災=生活を見直すこと 3つの力は日常でも役に立つ

 緊急事態下では足りないものばかり。今手に入るものでどう対応するかを考えることが重要です。そんなときに大事なのがアレンジ力。

「ペットボトルの蓋に穴を開けて使うと、少ない水でも使える簡易シャワーに早変わり。また、ライトの上に水を入れたペットボトルを置けば、ランタン代わりに周りを照らすこともできます」

 ペットボトルにしても、先ほどの新聞紙にしても、アレンジ一つで大活躍。「災害時に何が必要になるか、想像力を養っておくと、自ずとアレンジ力も身につきますよ」と辻さん。

「決断力も想像力もアレンジ力も、仕事や毎日の暮らしで必要な力。いつ来るかわからないもののための防災と思うと億劫だけれど、日常生活の質を上げることとつながってくるものなんです」

 そう考えると確かに、防災がポジティブなものに思えてきますね。

【コラム】

家族構成を入力するだけで、いざという時のための備蓄品目や必要量のリストを表示してくれるのがWEBサイト「東京備蓄ナビ」。結果表示からそのまま購入サイトにもリンクしていて便利です。でも、これはあくまで目安。コンタクトレンズや常備薬など、必要なものはそれぞれ違うもの。自分のプライオリティーがどこにあるか、想像しながら準備してみてください。

辻 直美(つじ・なおみ)

国際災害レスキューナース、一般社団法人育母塾代表理事。国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。それを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育や被災地での活動を行っている。著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』(扶桑社)、『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(扶桑社)など。

2021.09.29(水)
取材・文=張替裕子(giraffe)