スポーツの秋、食欲の秋、行楽の秋、秋には様々な面がありますが、おさえておきたいのが芸術の秋。暑さが和らぎ、澄んだ空気の中で芸術作品に触れる時間は、一年の季節の中でも特別なものです。

 今回は、そんな芸術の秋にスポットをあてて、様々な芸術作品に登場する「花」をご紹介したいと思います。

 絵画、文学、和歌、映画など、様々なジャンルの作品に花が登場します。登場の仕方も花がストーリーの中で重要な役割を果たしたり、美しい背景として使われたり、人の心情を表現したりとバラエティーに富んでいます。

 今年は、偉人達が世に生み出した芸術作品を鑑賞しながら、モチーフとなった花をそばに飾って、いつもとは違った特別な秋を過ごしましょう。


「ゴッホのひまわり」という名の品種も!

 花が登場する絵画の中で、日本人にも馴染みが深い絵画といえば、フィンセント・ファン・ゴッホが描いた『ひまわり』でしょう。新宿のSOMPO美術館で見ることができます。

 1987年3月にオークションにかけられ、安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン)が2250万ポンド(当時:約58億円)で落札しました。それまでの絵画取引額の最高額の3倍もの値段で取引された『ひまわり』は、その後のアート市場を変える歴史的な一枚となりました。

 『ひまわり』は、ゴッホが南フランスのアルルに移住し、友人であるゴーギャンを迎え入れるための装飾として描いたもので、波乱万丈な彼の人生の中でももっとも輝かしい希望に満ちていたときに描かれたもの、とも言われています。

 描かれているヒマワリは、日本でよく見かけるヒマワリとは少し違って、花びらの数が多い八重咲きのものや躍動的に花びらがうねっているものが多く目にとまります。

 近年日本ではヒマワリの品種改良が飛躍的に進み、ゴッホが描いたような特徴を持つものも登場してきました。

 その名もずばり「ゴッホのひまわり」というものや、彼の名にちなんだ「ビンセント」シリーズなど、種類もたくさんあります。

 ゴッホの描いたヒマワリは一輪一輪表情が違うので、思い描くヒマワリの特徴は人によって様々だと思います。自分が思い描くゴッホのヒマワリに一番近い一輪を、花屋さんでぜひ探してみてください。

たくさんの和歌に詠まれたオミナエシ

 オミナエシ(女郎花)は、日本に古くから自生している植物です。小さな黄色い花をたわわにつけ、日本の野山を黄金色に染めてきました。萩、尾花、葛、撫子、藤袴、桔梗とともに秋の七草の1つに数えられ、和歌でとても好まれて、たくさんの歌に詠まれたことでも有名です。

 その人気は、女郎花合せといって、和歌を添えた女郎花を持ち寄ってどれが一番美しいか競う遊びがあったほど。

 平安時代の歌人紀貫之は、女郎花合せ後の宴の席で「小倉山 峰たちならし なく鹿の 経(へ)にけむ秋を 知る人ぞなき」という歌を詠んでいます。意味は、小倉山の峰に立ち、(妻を恋しく)鳴いている鹿はこれまで何年、何回の秋をこうして過ごしてきたのだろう、というしっとりとした秋らしい歌です。

 この歌の各々の句の頭文字に注目してみると、オミナヘシの文字が忍ばせてあることが分かります。これは折句といって1つの歌の中に別の意味を持つ言葉を織り込む、言葉遊びのひとつです。女郎花合せの直後に開かれた宴の席なので、直接歌に女郎花の言葉を入れるのを避けたのでしょう。

 秋の七草は、春の七草と違って食べるのではなく、観賞するために選ばれた花々です。なかでも桔梗や撫子は、現代でも花屋さんで手に入れやすいものです。万葉人の歌のセンスに思いをはせながら、オミナエシとともにそっと飾ってみてはいかがでしょうか?

2021.09.24(金)
文=佐藤俊輔