世界の海を舐め歩いた塩作人に会う

 とにかく海がきれいな伊平屋島。

 沖縄本島から40km以上も離れていることから、ダイビングやシュノーケリングで訪れる人も比較的少ないといいます。

 この海を知らないなんて……、本当にもったいない!

 さて、この素晴らしい海でこだわりぬいた塩を作っている人物が、伊平屋島のお隣・野甫島にいらっしゃると聞いて、会いにいってみます。

 伊平屋島と全長680mの野甫大橋でつながっている野甫島。絶景を満喫できるその橋から海を見下ろしてみると……。

 これが伊平屋ブルーの海!

 ふるえるくらいにきれいな海が広がっていて、よーく見てみるとウミガメが泳いでいたり。この海の色を見るだけでも「この島に来てよかった!」と、きっと誰もが思うはずです。

 さて、野甫島は面積約1㎢の小さな島。人口は100人ほどで、宿泊施設やお店なども現在はありません。それだけに島の周囲には、汚れのない澄みわたった海が広がっているのです。

 この海で25年以上にわたって塩作りをしているのが、松宮賢さん・さゆりさん。まさに塩に生涯をささげる職人さんです。

 いい塩があると聞けば、海塩、岩塩、湖塩……訪れた国は、これまでに50カ国以上。

 日本国内はもちろん、世界各国で海の水を舐め歩き(!)、ようやくたどり着いたのが野甫島だったといいます。

 かつては、科学の最先端でお仕事をしていたという賢さん。塩作りの世界にどっぷり浸かるきっかけは30歳のとき。

「人生、本当にこのままでいいのだろうかと、ふと思ったのです。そして、頭によぎったのが『人間にとって大切なのは、米と塩』という、祖母がよく口にしていた言葉です」

 生命が誕生した海から、人間の命に欠かせない塩を作ってみよう。

 そこから独学で研究を重ね、自力で製塩施設を建て、試行錯誤の末に、手もみ完全天日塩「塩夢寿美(えんむすび)」が完成しました。

「この場所で塩作りをしたい。島の人にそう伝えたら『あぁ、それはいいねぇ。ここは海がきれいだから』って言ってくれて。塩夢寿美ができたのも、野甫島のおおらかな〝ちむぐくる(=真心)〟のおかげです」

 松宮さんの塩作りは、海水をポンプでくみ上げる以外は、すべて手仕事というから驚くばかり。

「野甫島の海水は、珊瑚礁特有の酸味を少し含みながら、とてもまろやか。しかも生活排水などが混じっていません。その海の恵みを太陽と風の力だけで濃縮していくのです」

 天日のもとで結晶となった塩を、さらに丁寧に手もみ。この作業に毎日7時間は費やすそうで、これによって塩に含まれるミネラルをベストな状態とバランスに保つことができるのだといいます。

 できあがったばかりの「塩夢寿美」は、太陽の光をあびてキラキラと輝いています。

「これが自然の輝き。目にするたびに背筋が伸びる思いになりますし、手にするたびに心がふるえます」

 その塩を口にしてみると、まろやかなコクがありながら、とにかくひと粒ひと粒が力強い。本土のスターシェフたちにも、この塩のファンがたくさんいらっしゃるそうです。

 なお、塩作りの見学は基本的にNGですが、松宮さんが島内で運営している「世界塩の博物館 ソルトクルーズ」では、塩へのこだわりを聞くことができるほか、もちろん「塩夢寿美」も購入できます。

世界の塩の博物館 ソルトクルーズ

電話番号 0980-46-2180
開館時間 13:00~18:00(日曜8:00~13:00)
休館日 火・水曜、年末年始
http://www.cam.hi-ho.ne.jp/nohonoshio/hpnohonoshio_001.htm
※ウェブサイトから塩の注文も可能です

2021.01.20(水)
取材・文=矢野詔次郎
撮影=志水 隆