猿之助さんがもらした、とあるひと言

 清々しい秋晴れのある日、目的のスタジオを訪れると目に飛び込んできたのはコンビニのようなセットでした。「家族商店」という名のこのお店には、「おぬしと、よろずに」というキャッチコピーまでついています。思わず「あなたとコンビに~♪」と思わず口ずさみたくなるような雰囲気です。

 スタッフが撮影の準備を着々と進めるなか、監督・脚本・演出をも手がける市川猿之助さんがスタジオ入りしたという知らせが入りました。となれば、猿之助さんを探して即! 移動です。

 そしてドアが解放されたロビーの一角に猿之助さんを発見! この作品の撮影クルーはもちろん、密着取材やこれから出演するテレビ番組のスタッフが代わる代わるに打ち合わせをしている様子。それらにテキパキと対応していくなかで、猿之助さんがもらしたある言葉をキャッチしました。

 「結局、元がよくできているから、変に手を入れると崩れるんだよね」

 元がよくできている。それって原作のこと? じゃあ、江戸時代の大ベストセラー作家・十返舎一九ってこと? でも歌舞伎座で上演された前4作はすべてかなり破天荒なオリジナル・ストーリーだったはず……。

 次々と湧き上がる疑問に首をかしげていると、猿之助さんが着替えの時間になったのでスタジオに戻ることに。

 スタジオでは出演の俳優さんが徐々に集まりつつあります。そのなかには市川中車さん、つまり香川照之さんの姿も。

 やがて国立劇場での舞台出演を終えた幸四郎さんが到着。幸四郎さんは20役を早替りする新作舞踊を毎日踊っているというのに、疲れた様子など微塵もみせずに衣裳や鬘などを整えていきます。

 猿之助さんはコンビニ店内の様子をチェックしたりさまざまなスタッフと段取りを確認したり、あちこちをせわしなく歩き回っています。

2020.12.26(土)
文=清水まり