キスや抱擁はNGだから挨拶はエルボーバンプが主流

 「ボンジョルノ! コメ・スタイ?(元気?)」旧市街の路地裏に連なる名物の巨大市場。いつも行く店の前を通りかかると、陽気に声をかけられる。マスク姿の店主は差し出した手を「おっと!」と引いて、代わりに肘を突き出してきた。マスクの向こうで、いたずらっ子のようにニヤリと笑う。だからこちらも、マスクをしたまま笑顔で肘を突き出す。

 イタリアの挨拶は、抱き合って両頬にキスをするか、がっちりと握手をする。でも今は、肘と肘を突き合わせるエルボーバンプが主流だ。

 アペリティーボで賑わう広場でばったり遭遇した友達は、ベルギーから帰省したばかりの妹夫婦を連れていた。5月から段階的に始まったロックダウンの解除。家から数百メートルだった外出許可が市内へ、次いで州内に拡大され、州境越え許可を経て国境が開いた。今は、欧州との行き来は自由だ。

 肘と肘で挨拶を交わすと、「ねえ、知ってる? 足バージョンもあるのよ」と片足をあげて、姉妹でくるぶし同士を突き合わせて見せてくれた。新しい習慣を、大人も面白がって取り入れている。

 イタリアのコロナ感染対策は、いつもカオスのイタリアからはちょっと想像できないくらいに、慎重だ。たしかに、ヨーロッパでいち早く甚大な被害に見舞われ、感染拡大初期には多くの死者を出してしまっただけに、慎重にならざるを得ないとも言えるが、イタリアが民主主義諸国初の全国ロックダウンに踏み切った3月12日から、まるで国民全員が目を覚ましたようにキビキビと、一丸となって感染対策に取り組んだ。

 毎日定時に対策本部(保健省とイタリア市民保護局)から発表される感染状況データ、分析結果をもとに迅速に発出される特別条例。どれもわかりやすく、国家が真摯に向き合っているのが伝わってくる。

 「まず何よりも国民の命を優先する」と力強く宣言したコンテ首相に率いられ、必死の対策を続けてきたイタリアは、ロックダウン解除後にも顕著な増加は見られず、7月には1日の新規感染者数が2百名を切るまでになった。今も社会的距離と閉所でのマスク着用義務(※)は継続中だが、街は通常の営業体制に戻り、どこかリラックスした空気が流れている。

Text=Sawako De Nola Iwata
Photo=Alessandro Di Giugno