一人の時間が自分を強くするロックダウンで変わる価値観

 ロックダウンで空っぽになったイタリアの街並みは、哀しく映ったかもしれないが、そんな「中の人」たちは想像以上に前向きだった。ロックダウンは最前線で闘う医療従事者を応援するためで、大切な人を守るためにも必要なことと誰もが認識していたから。閉ざした扉の内側で生きていることに感謝をし、それぞれが「できること」を探した。

 パン作りに挑戦し、大掃除をして、本を読み、連絡を取り合えば、「普段できないことを楽しんでいるよ」とたいていの声は明るく、犬の散歩で会う近所の人や普段は感じの悪いスーパーの店員も、穏やかに微笑んだ。生活困窮者や独居老人に手を差し伸べた人も多かった。

 傍若無人に猛威を振るうウイルスは、まるで嵐のようだ。ならば大人しく過ぎ去るのを待つしかない。自然の脅威の前に、人間はいかにも小さいのだ。

 諦観と希望と、小さな人間同士が手を取り合って乗り切ったロックダウン。振り返ってみれば、家族と共に過ごした人も一人暮らしの人でも、多くが「自分自身と向き合う機会になった」と言い、ロックダウン後は「一人の時間の優先順位が上がった」と言う。

 家族や仲間が人生における第一義なのは、後にも先にも変わりはないが、賑やかに集うばかりが日々の充実を図るものでもない。むしろ一人の時間が育む大切なものもある。そうして地中深くに丈夫な根を張れば、嵐が来ても倒れない強い木が育つだろう。

Text=Sawako De Nola Iwata
Photo=Alessandro Di Giugno