閉店3日後に立ち上げた非営利のプロジェクト

 今回のロックダウンによって、多くの産業に影響が及んでいるのは言わずもがな、なのですが、なかでも特に大きな打撃を受けたのが外食産業です。

 突然の閉店を余儀なくされたレストランのなかには、生き残りをかけてテイクアウトや仕出し、はたまた食材や日用品を販売する店舗へと舵を切る店も多数ありますが、それでも失業者が溢れる事態となりました。

 そんななかで、失業したシェフやウェイターをなんとかサポートしようと、早々に立ち上げられたプロジェクトがLondon Restaurant Co-operative。

 もともとロンドン中心部でLe BabとMaison Babという2軒のレストランを経営していた、スティーブン・トーザーさんが立ち上げたプロジェクトです。

 スティーブンさんにお話をうかがいました。

 「ずっと満席だったうちの店が、次の週には半分になり、そしてその次の週には空っぽになって、閉店を決めたのは3月17日(火)のことです。全部で50人いるスタッフに給料を払うことができなくなってしまったのです。

 ほかの店も同様で、突然、多くのシェフやウェイターが職を失いました。彼らには能力と才能があって、しかも働く意欲もある。僕らには、厨房という働ける場所もある。

 そこで、職を失ったシェフが料理を作って、ウェイターが配達をする非営利のプロジェクト=London Restaurant Co-operative(ロンドン・レストラン・コーポラティブ)を、閉店から3日後に立ち上げたのです」

 London Restaurant Co-operative(ロンドン・レストラン・コーポラティブ)のシステムは明快で、日替わりで毎日2品(うち1品はベジタリアン)を各6.50ポンドというリーズナブルな価格で提供。

 メニューは、カレーやグラタンなど、低コストで素朴な、でも英国人にとっては馴染み深い料理ばかりで、ウェブサイトからオーダーすると、自宅まで届けてくれるというもの。

 利益は100%、キッチンとデリバリースタッフに入るという仕組みなのだそう。

医療従事者へ食事を寄付できる

 さらに、英国では現在長時間労働を強いられている医療従事者が満足に食事を得られないという問題が発生していることもあり、ウェブサイトから医療従事者への食事1食分4ポンドで寄付することも可能。

 「最初は寄付金のあった数のみ病院にデリバリーしていましたが、『従業員の給与の最大80%を支援する』という政府決定を受けて、(金銭的不安が和らいだため)コンスタントに100食、病院に届けられるようになりました。今後さらに多くの食事を届けられるようにしていくつもりです」とスティーブンさん。

「外食産業、特に厨房で働く人間は常に早いテンポで、フル回転で働いている。今回の騒動は、時速100マイルで走っていた車がコンクリートの壁にクラッシュしたようなもので、経済面もさることながら、突然やるべきことを失った彼らの精神面も心配です。少しでもこのプロジェクトが助けになればと思います」

文・撮影=安田和代(KRess Europe)