「本は苦手」から読書好きに

 撮影のための文庫本を手渡すと「1ページめから読みたくなっちゃう」とつぶやいて、真面目さと、本への愛着を覗かせる。

「勉強が苦手だったので、あまり本は読まないほうだったんです。役者という職業に就いて、文字を読むことに慣れようと本屋に通うように。たまたま最初に手に取ったのが、僕も学生時代にやっていた野球に関する小説『魔球』。想像力をかきたてられて、知らず知らずのうちに感情移入してしまいました。それ以来、東野圭吾さんは特別な作家です。家には専用の棚もあります(笑)。本の中の世界に没頭して、いろんなことを知って、感じて。最初は息抜きのつもりもあったんですけど、今では本が手放せなくなってしまいました。

 本を選ぶ時には、本屋で『これ、売れてます!』と書いてあるものを手に取っちゃう。流行に弱くて(笑)。タイトルの言葉に『どういうことだろう?』と惹きつけられることも多いです。並べてある本を自分の目で見て、刺激を受けるのがいいんですよね」

真っ向から苦しむことが糧になる

「忙しい日々のなかで一息つけるのは、やっぱり眠る時。だけど、眠れないこともあります。座長をつとめた『薄桜鬼』の土方歳三を演じた時は、夢の中でもずっと何かと戦っていました(笑)。でも『苦しめ、苦しめ』と思ったんですよね。僕はずっと甘やかされてきたので。素敵だと思う人って、苦労してきた人が多い。そういう人ってブレない強さがあるし、歩んできた人生は人柄や役柄に出る。つらいけど、好きなことなのでやめようとは思わないです。『しんど!』とは思いますけどね(笑)」

 キャラクターを演じるためには、原作を研究してつくり込むだけでなく、周りとのセッションも大切。「自分でスイッチを切り替えるというより、周りに切り替えてもらっているのかも」と振り返る。彼が演じる奇想天外なキャラクターに体温を感じるのは、人に対するあたたかさ、そして、時には本の世界に没頭するような、彼自身が“不器用”と評する懸命な探究心があるからに違いない。

2018.10.16(火)
Text=Mayuko Ueda
Photographs=sai
Hair & make-up=Satoko Nishida

CREA 2018年11月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

101人の本と音楽とコーヒー。

CREA 2018年11月号

人生をちょっと自由にする、心の「スイッチ」
101人の本と音楽とコーヒー。

定価780円

慌ただしい毎日に、ちょっとひと休み。本と音楽とコーヒーを愛する101人に、大切な1冊、1曲、1杯を教えてもらいました。ちょっとだけ自由な気持ちになれたり、自分らしくいられるような、皆さんの心の「スイッチ」をご紹介します。