美味しそうな料理を美しく映しだすグルメ映像や、料理の楽しさを伝える料理番組。多様な食のありかたを紹介するドキュメンタリー。食をめぐる映像は世に溢れていて、何を見ても楽しく、食欲が掻き立てられる。
でもときには、何かを食べるという行為そのものの意味や、身近な食材の知られざる歴史を垣間見れる、ちょっとユニークな映画たちとも出会ってみたい。
この夏に監督作品が公開される永田康祐と吉開菜央は、どちらも映画にとどまらず、写真やパフォーマンス、ダンスなどジャンルを超えて活躍する新進気鋭のアーティスト。彼らの作品は、いわゆる「食のドキュメンタリー」とはまた違う視点で、あっと驚くような食への新たな視点を私たちに与えてくれる。
日本の植民地支配によって造り変えられた伝統酒マッコリ
まず紹介したいのは、食文化や料理をテーマに、独自のスタイルでアート活動を行うアーティスト・永田康祐の映像作品を集めた「Fire in Water永田康祐映像作品集」。パフォーマンスとして自ら料理をし、その様子を作品の中でも映し出す永田の中短編6作品はどれも「食」をテーマにした作品だが、着眼点はきわめて独特だ。
なかでも驚きとともに深く考えさせられたのは、日本統治下の朝鮮半島における稲作とマッコリ醸造の歴史をめぐる映像作品『Fire in Water』。米から作られる韓国の伝統酒マッコリは、昨今では日本でもいろいろな種類の味が気軽に楽しめるお酒だが、ではそのマッコリはどのような歴史を辿ってきたのか。そこには日本の植民地支配がおぞましい形で関係していたことを、私はこの作品を通して初めて知った。
主な原料となる米と、小麦などの穀物を発酵させて作られる自家製酵母「ヌルク」を使って作られるマッコリは、朝鮮王朝時代までは各家庭での自家醸造が当たり前だったという。だからマッコリの味はそれぞれの家庭で違い、その製法は家で酒造りを担う女性たちによって独自に受け継がれてきた。ところが、植民地主義を推進する日本が1910年8月より朝鮮半島を統治下に置いたことで、この伝統的な酒造りのありかたは大きな変化を余儀なくされた。
まず起きたのは、稲の品種の変化。食糧増産を目指す日本政府は、現地の農民たちが育ててきた在来米の品種をより丈夫だとされる日本産の品種へと切り替えた。さらに品種改良による大量収穫を進めたことで、それまで朝鮮に伝わってきた稲の品種は滅びてしまう。よって、現在流通する韓国米の大半は日本の原種を改造したものだ。
さらに日韓併合後に施行された酒税令によって家庭での自家醸造が禁止され、酒造りはすべて国の管理下に置かれることに。ヌルクの代わりに持ち込まれたのは、日本産の米由来による麹。こうして、各家庭によって異なる味を持っていた伝統的なマッコリは、大量生産型の均一的な酒へと無理やりに変えられてしまったのだ。
私たちは今、韓国文化を享受し、そこで供される酒や食べ物を何の気負いもなく楽しんでいる。けれど、日本の植民地支配が稲作やマッコリ造りにも及んでいたように、食文化は政治の影響と切り離せない。その事実を、『Fire in Water』は教えてくれる。
一方でこの作品は、権力の力をかいくぐり、たくましくサバイブする食物の力についても紹介してくれる。一度は姿を消した朝鮮の在来米や、米由来の麹に取って代わられた自家製酵母ヌルクの現在地とは。作品のなかでひっそりと声をあげつづける酵母の小さな声に、ぜひ耳を澄ませてみてほしい。
