まぶたを開ける前から感じた気配
その日の夜。
Aさんは睡眠薬をもらわずとも、すでに眠気に身を委ね始めていました。
今回の入院で気づけたのは、こんなことで一気に心のバランスが壊れてしまう自分の脆さだ。小さな頃の汗と同じく、自分の心の弱さが漏れ出して人にバレるのがすごく怖かったのだろう……――Aさんは沈みゆく意識の中でそう考えていました。
彼を穏やかな眠りから引き戻したのは、小さな物音でした。
ゴソゴソ……。
誰かが自分の部屋の中で動き回っている……まぶたを開ける前から感じた気配。
ぼーっとした意識の中でゆっくりと目を開けると、老婆が箒で部屋を掃除していました。
「あら、起こしてしまったかしら。すみませんねぇ」
「あ、いえ、ご苦労様です……」
こちらの返答にぺこりと小さく会釈を返したその女性は、視線を床に落としてまた黙々と掃き掃除を始めました。
部屋の電気は消えたまま。
自分はまだ夢を見ているのだろうか? ――よく夢の中で夢だと気づくと金縛りに遭うと言いますが、そういったこともありませんでした。
「じゃあ、掃いたの、ここに入れちゃいますね」
そう言ってこちらに微笑んだしわくちゃの笑顔。
彼女はちりとりの中身をベッド脇の背の低いゴミ箱にザラザラザラザラ……と流し入れました。
「失礼しました」
彼女は背を向けてトコトコと扉の方に歩いていくと――。
バンッ!
というやたら激しい音を立てて扉を閉めました。
扉には緩衝材が付いているのに、あんなに大きな音が鳴ることがあるのだろうか。というよりも、よく考えるとあの女性の服装は看護師でもなんでもなかったのでは――。
「誰……?」
