放送後にファンが小説、漫画、動画など、自由な形でリライトする独特のスタイルでも話題を呼んでいる、生配信サービス「TwitCasting」の怪談語りチャンネル「禍話(まがばなし)」。語り手であるかぁなっきさんが若い頃から集めに集めた実話怪談は、10年の節目を迎えた今年もいまだに尽きる気配がありません。

 今回はそんな禍話から、神経質な中年男性が予期せぬ入院中に体験した奇妙で恐ろしい出来事をご紹介します――。

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確かに聞こえる“音”と甦る記憶

 張り詰める空気。

 Aさんが息を殺して耳をそば立てていると――。

 カリッ…………カリッ…………。

 今度は2回音がしました。

 子猫が爪を研いでいるような、生き物の気配を感じさせる音。

 机の上に置いてあった、妻からもらった耳栓を取り出して、苛立たしげに耳に詰め込んだ瞬間、不意に小学生のときの記憶が蘇ってきました。

 当時のAさんは汗をかきやすい、少しぽっちゃりとした体型の子どもでした。

 緊張したとき、怒られたとき、誰かに見られていると感じたとき、首の後ろや背中からぶわりと汗が噴き出してくるのです。

 体育館で全校集会があったあの蒸し暑い夏の日。

 延々と終わらない校長先生の長話。

 床板にこもる耐え難い熱。

 後頭部ににじむ汗はやがて首筋を伝って落ち、体操服の背中を濡らしていきました。

「お前、背中びしょびしょじゃん」

 背後から聞こえてきたクスクスというクラスメイトの嘲笑。

 聞こえないふりをしたものの、汗はますます吹き出してくるばかり。

 脇の下に伝う汗を止めようとしたのか、それとも嘲笑の視線に耐えかねたからか。Aさんが身をよじった瞬間、どこからかその声は聞こえてきたのです。

『デブ汗』

 汗だくで布団から半身を起こしたAさん。彼は何かに突き動かされるように体をよじると、ベッドの下を覗き込もうと顔を横に出しました。そのときでした。

 黄ばんだ灰色をした、10センチはあろうかという異様に長い爪としわくちゃの手。

 それがベッドの支柱を爪でカリッ…………と撫でてから消えるのが一瞬見えたのです。

「うわぁ!!」

 またしても汗だくでベッドから飛び起きたAさん。

 外はまだ真夜中で、辺りはしんと静まり返っていました。

 バクバクと激しく脈打つ心臓の音。

 今度こそ本当に夢から覚めたのかという不安と共に垂れる額の汗。

 硬く握り締めていた左手の中にはすでに押されたナースコールのボタンがあり、瞬間、Aさんの中に深い後悔と恥ずかしさがこみ上げてきたそうです。

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