「見に行ったりしたらダメかな……?」
好奇心は猫をも殺す。Fさんが他人の失敗談を聞いているときにいつも思っていたその言葉。
「なんすか?」
自分にはそうしたことは起こらないという根拠のない確信が、肝心な場面での判断を鈍らせたのかもしれません。
「見に行ったりしたらダメかな……?」
OさんはしばらくFさんを見つめた後、残りのペットボトルのジュースを一気に飲み干しました。
「いいですよ」
日差しに濃い雲がかかりました。
キラキラとしたベンチにインクを水に零したようにサッと広がる薄暗い影。
音もなく日向を塗りつぶしていく薄暗い影の中で、おもむろに腰を上げて目の前のゴミ箱にペットボトルを捨てて振り返ったOさんの顔はよく見えなかったそうです。
その日の講義には身が入りませんでした。
自分だけが偶然聞いてしまった異様な話。考えてしまうのはそのことばかり。
「あ、おつかれさまでーす」
午前中の日差しが嘘のように曇天になってしまった午後。約束通りキャンパスを出た辺りでこちらに軽く手を上げるOさんの姿が見えました。
「うん、行こう」
近づく宵闇に追い立てられるように、2人はあまり言葉を交わさずにOさん宅に続く坂道を歩き始めました。
» (後篇に続く)
