「賢い諦め方」ばかりが上手くなってはいなかったか
プロデューサーの佐野亜裕美は、前作『エルピス』でテレビというメディアの限界に真っ向から切り込み、大きな話題を呼びました。『銀河の一票』においては批評性をさらに深化させつつ、今度は「エンターテインメントとしてのポップさ」と「生活への全幅の信頼」という、より開かれた武器を手に取ったように見えます。
本作は実際に選挙ボランティアに潜入して徹底取材したという、圧倒的な「選挙インフラのディテール」により、「政治の話をするのはタブー」という、現代日本を覆う重苦しい同調圧力をそっと解きほぐし、銭湯の湯気のような温かさと、「文化の力」で、硬い現実にひびを入れています。
このドラマにおいて、魔法とは超自然的な力のことではありません。不完全な私たちが、自分の生活の中から「元気」と「勇気」を絞り出し、誰かのために、そして自分のために行動を起こすことです。
それはなにも、身近な地方自治の困りごとを解決するためだけのものではありません。私たちが暮らす街の、そのさらに先にある「国という大きなシステム」に対しても、私たちは自らの意思をはっきりとぶつけることができるのです。
たとえば、この国の土台そのものを定義し直すような大きな未来の選択や、誰かの日常や尊厳を置き去りにする冷たい潮目に対して、私たちは決して無力ではありません。「地方の話だから変えられたけれど、国という大きな仕組みは動かせない」と、そこで境界線を引いて諦めてしまう必要はどこにもないのです。
日々の暮らしの中で感じる小さな違和感をうやむやにせず、身近な人と「これって、おかしくない?」と言葉を交わしてみること。自分の、そして誰かの大切な日常とかけがえのない居場所を守るために、自作のプラカードを掲げて路上に立ってみること。あるいは音楽や温かな光を放つペンライトを携えて、自らの意思を静かに、けれど確かに表明するデモの列に加わってみること。
それらすべてが、私たちがこの社会の主役であり、確かな「担い手」であるという地続きの証明そのものです。投票に行くことだけでなく、一人ひとりが問題意識を持ってしなやかに立ち上がること。誰かとの対話を諦めないその一歩こそが、私たちの生きる世界を、少しずつすこやかな方向へと変えていくのです。
大人になるにつれて、私たちはいつの間にか「賢い諦め方」ばかりが上手くなってはいなかったでしょうか。だからこそ、冷笑を脱ぎ捨てた大人たちの、美しくも泥臭い逆襲劇の結末を、私たちは見届ける必要があります。
そのとき、私たちの手にある「一票」は、この銀河のどこかで、確かに小さな美しい花を咲かせる魔法となります。それはきっと、私たちの現実の「生活」を動かす、しなやかで強靭なエネルギーへと変わるはずです。
月10ドラマ「銀河の一票」(カンテレ・フジテレビ系)
毎週月曜 午後22:00〜22:45
