シンプルながら贅を尽くしたパブリックスペース

 さて、モザイク装飾が美しいエントランスの階段を上がって、邸内に足を踏み入れよう。玄関ホールで目をひくのは、何といっても扉枠の上部を飾る美しい彫刻の数々。モチーフとなっているのは、「世話をしていた王子を不注意で死なせてしまった乳母がそれを嘆いていると、奇跡が起こって王子が生き還った」、という内容のカタルーニャの古い民謡だ。アルベルト氏の、生後すぐに亡くなってしまった次男への思いが込められている。

プライベートスペースにあるガラス張りのサロン。ステンドグラスは上下とも全開できる。手前の壁に収納する形で隠し引戸があり、暑い日はそれを閉めて熱気が邸内に入らないよう工夫していた。(写真提供:Casa Lleó i Morera)
建物背面。いわゆる壁にあたる部分が一切ない全面ガラス張りの設計は、ヨーロッパでは初めてのものだった。

 この玄関ホールから右手が来客をもてなすためのパブリックスペース、反対側の左手がプライベートスペースとなっている。パブリックスペースでは、目の肥えた来客たちをうならせるため、高価なピンク系大理石をふんだんに使い、金箔や凝った意匠の寄木細工の装飾を多用するなど、一見シンプルながら贅を尽くした空間が広がる。

 対して、家族しか立ち入らないプライベートスペースでは、大理石の代わりにデザインタイル、木の彫刻のように見える天井装飾は実は漆喰細工に色をつけたもの、など明らかに差がつけられているのが面白い。

 とはいえ、どちらのスペースにおいても、彫刻、モザイク、ステンドグラスなど、担当したのは各分野の最高の職人たちである。見学の際にはぜひ装飾の隅々まで目を配って、その素晴らしい出来栄えをじっくりと見てほしい。

 なお、邸宅に合わせて家具もすべてオリジナルで制作されたのだが、それらは現在〈外部サイト〉バルセロナ・モデルニスモ・ミュージアム(Museu del Modernisme de Barcelona)に展示されている。インテリア好きな方ならそちらもお見逃しなく。

写真左端がイェオ・イ・モレラ邸。右端はバトリョ邸、その左隣がアマトイェール邸。1ブロック内に、モデルニスモの傑作が3軒揃う。

 家全体をひと回りしての印象は、広々として明るい、ということだろうか。天井が高い上に採光部が非常に大きく、美しいステンドグラスを通して自然光がふんだんに差し込んでくる。しかも、直射日光があたるガラス張りのプライベートサロンには、外気熱を遮断するための隠し扉を設置し、日差しの強い夏場も邸内が暑くならないように工夫されているという凝りようだ。

 それ以外にも、引戸を多用してスペースを有効活用、施工当時はまだ非常に珍しかった電動エレベータの設置、建物背面にはヨーロッパで初めての全面ガラス張りのファサードなど、斬新なアイデアや最新技術が駆使されているのにも驚かされる。この家は、美しいだけでなく、きっと住み心地も抜群だったに違いない。

 ムンタネーのモレラ邸のほか、このブロックにはカダファルクのアマトイェール邸、ガウディのバトリョ邸も立っている。モデルニスモの三大建築家の代表作3軒をはしごして見比べてみるのもおすすめだ。

Casa Lleó i Morera(イェオ・イ・モレラ邸)
所在地 Passeig de Gràcia, 35, 08007 Barcelona
アクセス Passeig de Gràcia駅(メトロ3号線、および国鉄RENFE)よりすぐ
電話番号 +34-936-762-733
休館日 月曜
URL http://www.casalleomorera.com/en
※見学はガイドツアーのみ。1時間のツアーと30分のエクスプレス・ツアーがある。
・ガイドツアー(英語・1時間) 火~日曜 11:00~
・エクスプレス・ガイドツアー(英語・スペイン語・カタルーニャ語の混合ツアー・30分)
火~日曜 10:00~18:30(昼休みを除き、30~60分間隔で開催)

坪田みゆき(つぼたみゆき)
バルセロナ在住、コーディネイター。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)イスパニア語学科卒。在東京スペイン政府観光局勤務などを経て、2004年よりバルセロナ在住。バルセロナ、バレアレス諸島(マヨルカ島他)、バスク地方などを中心に、スペイン全土の取材・撮影コーディネイトの他、通訳・翻訳業務も行っている。http://spainbcn.exblog.jp/

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文・撮影=坪田みゆき