――選挙を手伝うスナックの常連客たちも、もともと政治に関心がない、ただの「普通の生活者」として描かれていますね。
そうなんです。あまりにイデオロギーの話にして人を弾いてしまうと、テレビドラマでやる意味がなくなってしまう。だから「そういう思想の人たちの話でしょ」と切り捨てられないよう、表現についてはいろいろな人に聞いて細かく確認しました。
「これだけは譲れない」と決めていたこと
――そうしたバランスの中で、唯一「これだけは譲れない」と決めていたテーマは何だったのでしょうか。
「自己責任論だけは絶対に否定しよう」ということは最初から決めていました。自己責任論って、右でも左でもない、ただの新自由主義的な冷たさだと思うんです。従来の保守・革新といった勢力図とは全く違う、社会の土台を切り崩していくもの。そこに対してだけは、このドラマを通してちゃんと戦いたいなと思っていました。
――あかりの掲げる政策の根幹には、「成長や前進よりも、まず安心」という言葉があります。今の社会において非常に批評性を持った言葉だと感じますが、佐野さんはこの言葉にどのような思いを託されたのですか。
都知事選のドラマをやろうと決めたとき、一番大事なのは「どんなリーダー像を提示できるか」でした。古今東西のリーダー論をたくさん読みましたが、正直、今の日本を生きる私にはどれもいまいちピンとこなくて。結果として辿り着いたのは、「自分の不完全さや欠点を自覚した上で、足りない部分を補ってくれる人をちゃんとそばに置けるリーダー」でした。
ニュージーランドのアーダーン元首相が辞任する際、「自分にはこの役割を正しく実行するためのエネルギーが残っていない」と率直に言えることのすごさ。本当はやれる器じゃないのに、しがみついている人が多すぎるという思いもあって。自分の欠点を補うためにサポートメンバーを指名して戦う、アメリカ大統領選の副大統領指名のようなスタイルがいいんじゃないかと提案しました。
そこから具体的な政策を考えていく中で、脚本家の蛭田さんから出てきたワードが「安心」だったんです。成功したいとか、有名になりたいとか、そういうことの前に、みんなまず「安心したい」という漠然とした不安をずっと抱えている。
私の場合、物心ついたときからずっと日本は不景気で、景気が上向きになるところを一度も見たことがないんです。私より下の世代はなおさらそうだと思います。常に何かしら悪くなっていく空気の中で、「どうやったら生き延びられるか」という不安が、ここ数年でいよいよにっちもさっちもいかなくなっている。
そんな時代に、不完全なリーダーが提示できる一番切実なものとして「安心」という言葉を出してくれたとき、それ以外はもう思いつかないなと。本当に、現実の社会にもこういうリーダーが出てきてくれたらいいのに、と思いながら作っています。
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佐野亜裕美(さの・あゆみ)
1982年生まれ。2006年にTBSテレビに入社し、11年に『20年後の君へ』でプロデューサーデビュー。20年に関西テレビ放送に移籍。『大豆田とわ子と三人の元夫』(21年)、『エルピス—希望、あるいは災い—』(22年)など話題作を手がけ、23年に芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞した。
月10ドラマ「銀河の一票」(カンテレ・フジテレビ系)
最終回 6月29日(月) 22:00〜22:54
TVer、カンテレドーガ、FOD、Netflixなどで配信中
