失恋を、ちょっとでも楽しみながら乗り越えてほしい

――詠み句では具体的に明示されていなかったものが、たなかさんのイラストによって鮮やかに補完されていくのも印象的です。

又吉 実は絵について事前の打ち合わせは特にしてないんです。この読み札の意図は? とも聞かれてないですし、これはこういうシチュエーションでお願いしますとも言ってない。

たなか そうなんです。又吉さんから指示はなかったので、まずは自分の思うように描かせていただきました。

――それでいうと、「きつねうどんの食べ方が嫌でした」をこのイラストにしたアイデアがすごいですよね。

たなか 私が実際についついやってしまうのは、きつねうどんの揚げを「いかだ」みたいに使って、うどんを乗っけて冷ますことなんですけど、絵はこうしました。実際にやっている人を見たことはないですけどね。

又吉 僕もないです。もしかしたら、京都の奥のほうにある老舗に、伝統的な食べ方としてあるかもしれないですけど。まぁ、いなりずしみたいなことですもんね。

 この句は、単純に「揚げを先に食べるんや」とか、「揚げを器の底のほうに隠すんや」とか、「バランスよく食べられてないな」とかを想定してたので、たなかさんの絵でだいぶ面白くしてもらったなと思いました。

――その前の「帰って来ない人を待つの疲れるんだよ」で、肉じゃがにラップをかける描写を選んでいたのも興味深かったです。

たなか この句っていろんな描写が想像できますよね。最初は「帰って来ない人」自体を描こうかなと思っていたんですけど、帰って来ない人を待つのはなぜ辛いかと考えていくと、おいしいものをおいしい瞬間に食べさせてあげられないからなのかなと。多めに作った料理、彼のためにしたことへの応答がない、晩御飯いらないなら早く言ってよって思う……みたいな感じで、連想を広げていきました。

又吉 先ほど、たなかさんが言ってくれたように、句はすべて抽象で詠んでいるんです。この句も急に帰って来なかったり、急に飲みに行ったりする人と付き合っていたり、同棲していたりする人はいろいろと考えることが多そうやなくらいの感じで書いてたんですけど、いい絵ですよね。

 失恋というのは、誰しもある程度経験するものだけれど、辛いことでもある。だから、ちょっとでも楽しみながら、笑いながら乗り越えられたらいいなと思っていたんですが、僕の性質なのか、たまにすごく深刻な句も出てきてしまうんです。それも、たなかさんのユーモア溢れる絵で支えられました。ほんまにセンスがすごいです。

自分自身の未熟な部分に気づけたのはよかったこと

――又吉さんの思う深刻な句というのは?

又吉 「成長したんじゃなくて諦めただけ」とかはそうですね。あと、「苦しい顔するの、得意だよね」なんて言われたら、僕、言葉を返せないです。実際に言われたことがないからこそ、自分自身にぶつけてみた句というか。僕と関わる人はみんな優しいから逃げ道をちゃんと守ってくれるんですけど、小説を書くときは、あえてその逃げ道を完全に消すような書き方をすることがあるんです。この句もその感覚でした。

たなか 「苦しい顔するの、得意だよね」は、かなりきつい言葉ですよね。私も言われたことはないですが、心配されたくて、相手を試すような行動をしてしまったことがあるので、その時の反省を込めて描きました。暗くてドーンとしてる絵になりましたけど、自分自身のそういう部分に気づけたのはよかったことだと思うので、ハッとしている絵にしました。

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