新庄 私は純文学畑の出身で、2012年のデビュー後は、低空飛行を続けていました。そんな折、編集者から地面師事件をテーマに勝負しないかと提案されたんです。これでダメだったら筆を折る覚悟で書いた最初のエンタメ作品でした。ただ、「『オーシャンズ11』みたいなポップな感じですかね」という提案に対しては、もう少し人間ドラマとして描きたいという思いがありました。
大根 「地面師たち」は僕にとっても勝負を賭けた作品でした。
30代の頃から深夜ドラマを手がけてきて、「モテキ」のように映画化されるものも出てきて、40代は自分のやりたい企画も実現できるようになりました。ただ50代に差しかかる頃、自己模倣というか、過去の自分の作品に囚われて縮小再生産的になっていると感じて、自分から発信する作品は「1回休もう」と、ここ数年は、大河ドラマ「いだてん」や映画「クレヨンしんちゃん」、ドラマ「エルピス」といった受注仕事を中心にしていました。次に自分の企画でやるなら、これまでやってこなかった作品をつくろう、と思っていたところで出会ったのが、新庄先生の『地面師たち』だった。こんなことは滅多になく、何かに呼ばれている気がしました。
原作との運命的な出会い
新庄 監督が私の小説を見つけてくれたのは、海喜館のすぐ近くだったんですよね。
大根 これも不思議な縁で、事件発覚から約1年後、海喜館の向かいにあった書店に何気なく立ち寄ったら、平積みコーナーに、まるで「ご当地犯罪小説」(笑)のように本が置いてあったんです。もう中身も確認せずにその場で買いました。ノンフィクションと違って、登場人物がユニークで、ハリソン山中と辻本拓海の師弟関係などはこれまであまり見たことがない歪(いびつ)さ。一気に魅了されて無我夢中で読み終えました。
「映像化は絶対に俺がするぞ」という思いでしたから、読みながら頭の中にはもう映像やキャストが自ずと浮かび上がってくる。その日の深夜には企画書を書き上げました。それで、その勢いのまま、版元の集英社に電話をかけたんです。
2024.11.02(土)
文=大根 仁、新庄 耕