この記事の連載

「松本、俺のところに遊びにおいでよ」

 時は1969年秋。松本さんは、細野晴臣さん、大滝詠一さん、鈴木茂さんとともに、新たなるバンド「ヴァレンタイン・ブルー」を結成することになった。

「それまでぼくは、細野さんと一緒にエイプリル・フールというバンドにいて、アルバムも1枚出したんだ。でも、すぐに解散することになって、細野さんが、『小坂忠と一緒に新たなバンドを作る』と言うから一緒にやることにしたんだ。でも、ヴォーカルを担当する予定だった忠が参加できなくなってしまい、代わりに細野さんが連れてきたのが大滝さん。立教の友達に紹介されたらしく、好きなレコードの話で意気投合したというんだ。それから、当時、高校生だった茂を連れてきたのも細野さん。『スーパーギタリストを見つけた』ってさらってきたんだよ。

 でも、新しいバンドをやるって決めたのはいいけれど、言い出しっぺの細野さんのエンジンがなかなかかからず、メンバーは揃ったのにオリジナルが1曲もない。何かないと始まらないから、大滝さんとぼくで曲を作ることにしたんだ。『じゃあ、松本、俺のところに遊びにおいでよ』って大滝さんに誘われて。それが12月のある日のことだったんだ」

 夜8時。そぼ降る雨の中、大滝さんが居候するアパートへ行くため、当時、西麻布に住んでいた松本さんは、タクシーを拾おうと、富士見坂を上りテレ朝通りに出ると、六本木通りの交差点で立ち止まった。現在の六本木ヒルズがある場所だ。

「反対車線は銀座方面へ行く道だから、タクシーがどんどん通るんだけど、若林は反対方向だからなかなか来ない。ちぇっと思いながら、道路にできた水たまりをぼんやりと眺めていたんだ。行き交う人の姿や街の光を反射するのがきれいだなと思いながら。そのとき、ああ、そうだ、この光景を歌にしよう、と」

 大滝さんがいるアパートに到着すると、松本さんはすぐさま詞を書いて渡したという。「この詞に曲をつけてみて」と。

真冬の舗道に 人が行きかい 雨のにおいが あたりにただよう
雨あがりのまちは 風もなくつめたい 白い息がふるえ 心がふれる
凍てついた空を 街影がふちどる ぬれた髪を さあ笑ってごらん

2023.11.28(火)
文=辛島いづみ
撮影=平松市聖