高見沢さんがヴィンテージやシグネチャーモデルのギターをコレクションすることにも、同様の意義があるものと拝察します。半世紀という長い期間にわたって、日本の音楽シーンを華やかに彩る存在感を示し、活躍してこられた方だからこその使命であるとも思います。またそういう方が収集されているということで、説得力を持つコレクションともなっています。
中途半端な規模ではなく、コレクションは大きくなればなるほど価値が生まれるというサイズエフェクトもあります。高見沢さんのコレクションは、もはやミュージアム級ではないでしょうか。
人類の財産
都内のギター工房のコレクションコーナーに、高見沢さんのオリジナルモデルとして知られるエンジェルギターが出品されています。いっそのこと高見沢コレクションまるごと全部を展示するミュージアムがあればいいのにな、などと妄想することもあります。
トルコのイスタンブールにある古楽器博物館を訪れたことがあります。古今東西の楽器の原形が展示されており、音楽の淵源から、人間がどうして音楽を必要とするのかまで様々な思考が去来しました。高見沢さんがひと手間もふた手間も加えてカスタマイズされた(ものによっては弾きにくいという噂の)変形ギターも含めて、多くの人が、現代に息づくロックの歴史を辿ることのできるミュージアムとして、コレクションを昇華できる方は高見沢さんしかいらっしゃらないかもしれません。
ギターのコレクションを増やすことは時代に合わないという考え方も一方では確かにあります。しかし、高見沢さんが、「素晴らしい音楽を奏でてきた人たちの歴史を語るコレクション」という人類の財産を後世に受け継いでいくという使命に生きるとき、それは「風」の時代に合致したありようであるといえるのではないでしょうか。
なかののぶこ/1975年東京都生まれ。脳科学者。東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『ペルソナ』『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)、内田也哉子との共著『なんで家族を続けるの?』(文春新書)、鴻上尚史との共著『同調圧力のトリセツ』(小学館新書)など。
text: Atsuko Komine illustrations: Ayumi Itakura
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2023.08.24(木)
Text=Atsuko Komine
Illustrations=Ayumi Itakura