虎水高校と私が通っていたM高校はかように似た雰囲気があるのだが、決定的な違いがある。M高は男子校だった。だから冒頭で述べたように「羨ましい」のである。

『青春とは、』はおおむね一章ずつ完結するエピソードが描かれている。連合赤軍事件の重信房子を美人だと評する一年先輩の男子への違和感。赤い口紅と濃いファンデーションが女子生徒たちからの反感を買っている保健室の先生と、男子たち。人気の男子生徒との関係を誤解された明子が、彼のファンたちにからまれるなど、あの時代ならではの話もあれば、時代を超えた思春期あるあるな話もある。高校三年間を男子校に通っていた身に「なるほど!」と響いたのは、たとえばこんなくだりだ。

「真性共学の異性生徒間には、『恋愛感情は介在しないが、異性であることで、同性同士より遠慮や気遣いをしなくてすむ、動物や昆虫の♂と♀が敵対しないようなレベルに近い平和な間柄』が、頻繁に生じる。これは共学において『友だち』と呼ばれるが、『恋人未満の関係』とはまったくちがう。質がちがう」。こういうところが羨ましい。中学生では幼すぎるし、大学生ではもう少し距離がある。たった三年間ではあるが、十代後半を男子だけですごすとこうした感性は育たない。

『青春とは、』の中に、男子校に行った幼なじみが明子に愚痴る場面がある。

「教室が黒いんやで。みんな黒い制服でカタマリになって、黒い黒いんやで。あー、うっとうしいわ」

 ほんとそう。入学した時の私の印象そのままである。なんてとこに来たんだと目の前が暗くなった覚えがある。

 しかし男子校の居心地が悪かったわけではない。『青春とは、』によれば、共学では勉強ができても、運動が苦手な男子は「体育のできひん男子」とされるとのこと(とされている相沢くんは『青春とは、』で一等好きな登場人物だ。台風のエピソードには爆笑した)。たしかに男子校でそれはない。運動音痴の生徒が多かったような気がするし(自分もそうだ)、そもそも真剣に体育をやらないのだ。

2023.05.30(火)
文=タカザワ ケンジ(ライター)