小田 いえ、すべては私が察して、決めたことです。

――二人で食事や旅行に行くことはなかったんですか。

小田 二人で出かけて起こりうるリスクを想像したら、家で過ごしているほうが断然リラックスできます。

――仲たがいしたことは?

小田 正確には、仲たがいではありませんが、実は3回、家出したことがあるんです。

 1回目はまだ一緒に暮らしてまもない頃。ある朝、高倉が突然無口になって「おはようございます」の挨拶もなく、何も言ってくれない。ある思い出に誘発された虫の居所の悪さだったと後から知りましたが、私の何かが気に入らないのだろう、それは申し訳ないと思って、おにぎりと味噌汁を作って「温めて食べてください」と書き置きをし、家を出ました。

家に戻るきっかけはいつも「お腹空いた」の電話

 すぐに海外に出ようとも考えましたが、パスポートの期限が切れていて。退路を断ってましたので。それならばと、車を運転して、できるだけ遠くに行こうと。そうして10日くらい経った頃、高倉から電話がかかってきて「お腹が空いたんだけど」って。私も阿吽の呼吸で「何がいいですか」と返事をして、ご飯を作りに戻りました。聞くと、カロリーメイトとコーヒーで過ごしていたそうです。カロリーメイトは、高倉が海外ロケのたびに、必ず持参していた必須アイテムで、旅先での食事が万が一口に合わないときの頼みの綱。不測の事態に備えて、家にも常備してあったんです。

「どこのレストランでも、本当に大事にしてくれる」と言い切っていた高倉でしたが、どこにも行ってなかったようです(笑) 。2回目の家出はその5年後、3回目はさらに3年後。家に戻るきっかけはいつも「お腹空いた」の電話でした。

夕食は毎日お肉の種類を変えてメニューを工夫

―─「食」はお二人の大事なコミュニケーションだったんですね。

小田 高倉は、俳優という生業をアスリートのように捉えていて、仕事のオファーがあったとき、すぐに動ける体作りを徹底していました。

2023.04.16(日)
文=北村浩子