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行列のかき氷店をひとり立ち上げた妹とフレンチ修業を積んだ兄

 「DEMEKIN」のそもそもの始まりは、三重から上京し、東京・湯島「サカノウエカフェ」のかき氷に出合って魅了されたレイラさんが、「自分の好きな味でかき氷を作りたい!」と、2019年に錦糸町で開いた間借り営業のかき氷店。当時から季節の素材を使い、複雑実のある構成で人気を集め、行列ができていたと言います。

 その頃、兄の若葉さんといえば、フランスの星付きレストランでの修業から帰国し、東京のフレンチレストランで働く料理人。

 「SNSなどで妹の店のことを見ていて、『めちゃくちゃ並んでいるらしいんですよ』と、レストランの先輩たちにも自慢していました。そのうち、妹が『もう一人では大変!』ということになって、レストランを辞めて助けに入ることにしたんです。それが、2019年9月くらい。その後、渋谷での間借り営業を経て、今の場所で初めて実店舗を持つことになりました」と、若葉さん。

 料理人としてのキャリアに未練はなかったのかたずねると、「もう、自分のスタイルでやればいいんじゃないかな、と思ったんですよね。妹のかき氷、うまかったですもん。レストランのデザートもおいしいけれど、かき氷に勝るデザートってあるのかな、と」。レイラさんにとっても気心の知れた仲良しの兄がそばにいることは楽しくて心強く、兄妹2人での「DEMEKIN」の歩みが始まりました。

 提供するかき氷のスタイルはレイラさんが始めた形をベースとし、新たなメニューは各自でそれぞれ作ることもあれば、2人で話し合いながら作ることも。若葉さんはレストランでの経験を活かし、ムースやパンナコッタをかき氷の中に潜ませたり、出汁や味噌、野菜、豆腐、酒粕といったスイーツではあまり馴染みのない素材や調理法を取り入れて考案したりすることもあるといいます。

 「メリハリをはっきりつけたいのは、料理人的なところかも。かき氷はケーキやデザートとは違って温度帯が低いので、乳脂肪分の比率が高すぎたり、ゼラチンが多すぎたりすると硬くなり、重すぎて残されてしまうことも多くなります。甘みや塩加減も含め、そういう調整が最初は難しかったかな」と、若葉さんは振り返ります。

氷の状態がいい今、柑橘をふんだんに使ったかき氷を

 そんな2人にまだ寒い季のかき氷の魅力を訪ねると、「夏は湿度が高くて氷がべちゃべちゃするんです。だから、寒い季節のほうが絶対おいしい! あったかい部屋でかき氷を食べられる幸福感もいいですよね」と、レイラさん。

 若葉さんも、「そうそう。夏よりも冬のほうがはっきりした味のかき氷が多いかも。柑橘類がめちゃくちゃ充実するのもすごくいい」と、言葉を繋ぎます。

 “みかんあんみつ”をテーマとした「和みかんタルト」は、まさにその柑橘を使った旬の味わいあふれるひと品。

 トップを飾るのは、ミカンと、黒ゴマのクランブル、アーモンドスライス、ほうじ茶のクリーム。自家製ミルクをかけたかき氷の表面を、実だけでなく皮も加えて火を入れたみかんペーストが覆います。口に運ぶと、心和むミカンならではのさわやかさと果実味が豊かに広がり、ほうじ茶の深みとゴマの香ばしさが個性をプラス。

 驚きは、中から現れる寒天、ミカン、うぐいす豆、豆腐白あん、黒蜜、黒豆きなこの多彩な食感と味わいです。「まさにあんみつ!」でありながら、黒蜜が自家製ミルクと混じり合い、余韻は黒糖ミルクのようなコク深さ。楽しさが口いっぱいに弾けます。

 「和でありながら和に寄りすぎないように、クリームやクランブルを合わせました。春先のみかんはめちゃくちゃ甘くておいしいですよね!」と、レイラさん。ひと匙運ぶごとに、全身が季節の香りで包まれるようです。

2023.03.14(火)
文=瀬戸理恵子
撮影=榎本麻美