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平野レミさんが「あーちゃん家でご飯食べればよかった」と

──いま、和田さんのお料理はご家族だけでなく、多くの人を幸せにしています。平野レミさんは、ワインご持参で和田さんのお料理を食べるのがいちばん幸せ、とよくおっしゃっていますが、ご自分でその感覚はありますか?

 ほんとですか? そういえば、おかあさん、私がつくったものを本当においしい、おいしいっていつも異常に喜ぶんですよ。外にご飯食べに行っても「やっぱり、あーちゃん家でご飯食べればよかった」とか言って帰ってきたりして「荷が重いよ、なんでそんなふうに言うんだろう。たいしたものつくってないのに」と思っていたんですけど(笑)。このあいだ、人に自分のレシピをつくってもらって、はじめておかあさんの気持ちがわかりました。

 冠番組としてやらせてもらっているRKB毎日放送『和田明日香のア・レシピ』というローカル番組で、相棒の土井祥平さんが「新刊のなかから何かつくります」という企画で、今作に掲載されている「師匠の酢豚」をつくってくれたんですよ。自分のレシピで誰かが料理してくれているだけでうれしいのに、それを食べさせてくれて、しかもレシピがちゃんとおいしいということがわかって、もううれしくてうれしくて。

 おかあさんも、普段は人に食べてもらうことが多くて作ってもらったものを食べさせてもらう機会が少なかったので、こんなふうにうれしかったのかなと、はじめてその気持ちがわかりました。

──お料理をするために、毎日スーパーに行くとお聞きしました。大変じゃないんですか?

 好きなんですよ、スーパーに行くのが。それに、毎日同じおかずになるのが嫌で、つくり置きや買い置きが苦手なんです。基本的にその日に使い切れる量の買い物しかしない生活です。その日の気分でご飯をつくりたいので、もし冷蔵庫に鶏肉があっても「今日は牛肉だ」って思ったら牛肉を買いに行きたいんですけど、そうすると冷蔵庫の鶏肉が無駄になっちゃうから、そういうことのないよう、生鮮食品はあまり買い置きしないようにしています。

 それに、スーパーに行って、旬とか、「もうこんな野菜が出てきたんだ」みたいなことを感じるのも好きなんですよ。保育園のお迎えに行ったであろうくたびれたお父さんが「ママがいい」と泣き叫ぶ子どもの手を引いて、一生懸命「混ぜるだけでできる」みたいな料理の素なんかカゴに入れているのを見ると、「ああ、作りに行ってあげたいな」と思ったり。そういうみなさんの生活が垣間見えたりするのも、スーパーが好きな理由です。

──和田さんにとって、お料理はいま、どんな存在ですか?

 『地味ごはん』を出版したことで、「何もできなかった私が、よくがんばった。この10年間はほかの誰にも得られない自分だけの経験だ」と、自信をもって言えるようになりました。

 結婚してしばらくは、自分が「平野レミのお嫁さん」「○○ちゃんのママ」という代替可能な存在なのかな? と感じることもありましたが、料理がそれを変えてくれました。これはすべての人に通じることではないですし、あくまでも私だけがしてきた経験ですが、料理には、そんなふうに人を前向きにする力もあると思います。私の人生において、かけがえのない存在です。

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和田明日香(わだ・あすか)

料理家・食育インストラクター。東京都出身。3児の母。料理愛好家・平野レミの次男と結婚後、修業を重ね、食育インストラクターの資格を取得。各メディアでのオリジナルレシピ紹介、企業へのレシピ提供など、料理家としての活動のほか、“食育”や“家族のコミュニケーション”をテーマにした全国各地での講演会やイベント出演、コラム執筆、ラジオ、CMなど、幅広く活動する。前作の『10年かかって地味ごはん。』(主婦の友社)は2022年、第9回料理レシピ本大賞in Japan料理部門入賞。2023年2月に発行部数25万部を突破。2021年からスタートした自身初の冠番組となるRKB毎日放送『和田明日香のア・レシピ』は毎週土曜日オンエア。他レギュラーにNHK-FM『眠れない貴女へ』、テレビ朝日『家事ヤロウ!!! リアル家事24時・お悩み解決レシピコーナー』など。

楽ありゃ苦もある地味ごはん。

和田明日香
定価 1,496円(税込)
主婦の友社
2023年3月3日発売
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

次の話を読む【茶色くて地味だけどホッとする】 画面越しの見知らぬあなたに届けたい 和田明日香「ねぎ塩チキン」レシピ

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2023.03.03(金)
文=相澤洋美
写真=鈴木七絵