SNSでまだ見ぬ植物の情報を集めることも

――新しい食材となる植物も探しているのですか?

古谷さん 常に探しています。“相棒山”という独自のネットワークを全国の山とつくって連携していますし、見つけたいなと思っている植物をSNSのタグから追うこともあります。植物が生息する敷地の持ち主の方に、サンプルの植物を送っていただくこともあります。

 今は、フウトウカヅラという、日本の野生の胡椒の塩漬けを販売しているのですが、なかなかフウトウカヅラが見つからなくて。そういうときにSNSを辿っていくと、フウトウカヅラはじめ、探している植物が敷地内に自生しているよ、という人と出逢えることがあるんです。

木本さん 秋に新しく開発したのは、落ち葉を使った蒸留酒です。「かつら」という木の落ち葉はキャラメルのような香りがするんですよ。落ち葉がまさか商品になるなんてきっと山の方も思っていなかったはず。けれど、すごくおいしいお酒になりました。

古谷さん そういう、今まで不要だと思っていたものに新しい価値を生み出し、世の中で話題になるのもやりがいのひとつですが、なによりいい商品ができた時、山の方に報告すると喜んでくれるし距離感がぐっと縮まるのも嬉しくて。

 たくさんの人に知ってもらえることへの喜びはもちろんありますが、山で働く人たちを喜ばせたくて商品を作っている気がします。

――どんなふうに商品開発しているのでしょうか。

古谷さん 自分たちで調理することもありますが、料理のプロではないし限界があるので、さまざまなレストランのシェフに知恵をお借りしています。最近では、モミを使った商品開発を進めています。かぼすみたいな爽やかな香りなので何かに使えないかと思っていたんですが、アクが強くてえぐみがあって、とても食べられたものではないんです。でもシェフに相談したら、塩につけたり、蒸し焼きをすると結構アクがとれるよって教えてもらえて。

――いろいろなパートナーがいるのも強みのひとつなんですね。

古谷さん そうですね。ふたりでやっているのが楽しくもありながら、すべてをふたりでまかなうと大変だし慌ただしいところもあるので、シェフなど、別の人に携わってもらうことで違う切り口が見出せたり、可能性が広がっていくと思うので、外部パートナーを巻き込みR&Dを加速させたいと考えています。

木本さん あとは活用したい植物が見つかったところで、誰がそれを収穫してどう活用していくのかというサプライチェーンも同時に考えなくてはならないので、SNSや知人の紹介で山の協力者を呼びかけたりも同時にしていますね。

――食べられる庭にはどのような役割を期待しますか?

古谷さん 食べられる庭を通して、顔の見える活動はしていきたいです。あとはその場で植物から調理するなど、ライブ感のある食体験も提供できたらいいなと。

木本さん 当時は、スギとヒノキを見分けることもできなかったのですが、山に行くようになって、今では香りや形にとても敏感になり、山の解像度があがりました。そういった、商品になったものを買っていただくだけでは伝わらないところもあるので、私たちが見てきたものを伝えたり、お客さまと山にも一緒に入れたりしたら嬉しいです。日本の山のファンが増えたらいいなと。

――話は変わって、クリエイティブのことも聞かせてください。大人っぽくてクールな印象で、世界観がしっかり固まっていますが、どのように発想していらっしゃるのですか?

木本さん 女性ふたりで立ち上げたブランドではあるけど、山に興味を持ってもらうターゲットを限定したくないという思いから、なるべくジェンダーレスなアウトプットを意識しています。今まで植物に興味がなかった人にとっても、それらが魅力的に映る世界感を大切にしています。

古谷さん 海外でも通用するデザイン、ということも意識しています。プロダクトを通して、日本の固有植物の可能性を広げたいし、日本の環境や林業における問題も知ってほしいし、ひいては日本の活性化にもつなげていきたい。だからこそ、海外へ目を向けることは重要と考えています。

――長髪の男性が葉っぱを食べている写真は印象的でした。

木本さん ヒントにしたのは、ジェン・ポーというアーティストの《シダ性愛》という映像です。人と植物のエロティシズムを描いた作品なのですが、その作品に衝撃を受けたのと、その世界観がぴったりだなと思ったところから始まりました。

――最後に、ご自身の原点となるものはなんだと思いますか?

古谷さん わたしは母が食にとても関心の高い人で、いつもごはんを食べながら、それがどんな食材なのかという話を聞かされていたんです。この豚肉はどんなふうに育てられたものなのか、この野菜はどういう栄養分が含まれるのか……、そういう食材のルーツを聞いて育って、自然と食に対しての興味が高まったのだと思います。

木本さん わたしは小さな頃から唯一絵を描くことが得意で。よく家族からも褒められたんです。それが嬉しくて、幼稚園の頃には画家になると決めていたくらいです。今も自分がデザインして、作ったもの、ブランドを誰かに喜んでもらえることがいちばんの喜びですね。

 食べられる庭の草木は今日も着々と栄養を蓄え、春に向けて準備を整えている。庭の詳細や今後のイベントなどは公式ホームページやSNSアカウントなどで発信中。

 日本中の山々からの恩恵もいただきながら、新しいおいしさに出会える日が待ち遠しい。

食べられる庭

所在地 東京都品川区東五反田3-7-15 などや島津山敷地内


日本草木研究所

軽井沢や岐阜、高知をはじめ各地に研究拠点を持ち、全国の里山に眠る植生の「食材としての可能性」の発掘を行っている。海外のスパイスやハーブが日々の食卓に並ぶように、日本の木々や名も知れない野草たちが食に当たり前に関わる日常を目指している。
https://nihonkusakilab.com/overview/
Instagram @nihonkusaki_lab
Twitter @nihonkusaki


などや

https://www.nadoya.jp/

2022.12.15(木)
文=吉川愛歩
撮影=平松市聖