オーガニックな雪室野菜をミシュランシェフの技で昇華

 「山形を愛する山形県民による山形のショールームでありたい」という山形座 瀧波のコンセプトは、ダイニング「1/365」の料理にもしっかりと反映されている。

 入り口にディスプレイされているのは、本日の料理に使われる雪室野菜。「雪室」とは降り積もった雪と藁で作られた天然の貯蔵庫で、室温は2度、湿度は100%、野菜や穀類を貯蔵すると、自ら凍るまいと野菜が自らでんぷんを糖に変えて、甘くなるという雪国の知恵である。

 この日の目玉は「舟形マッシュルーム」。舟形町で採れた完全オーガニックのマッシュルームを生で薄く切ったもの、ソテーしたもの、4時間以上煮詰めて濃厚なクリームソースにしたものなど、異なる味で楽しめる。

 2021年秋、新潟県三条市の「イル リポーゾ」から瀧波に合流した原田誠シェフは、「ミシュランガイド新潟2020特別版」で一つ星を、21年にはフランス発祥のレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ」で高い評価を得たイタリアンのシェフ。

 山形座 瀧波が得意とする山形の食材を使った和食に、イタリアンの要素を融合したメニューが供される。

 メニューは二十四節気(半月)ごとに変更される。手に入る食材によっても料理内容が変わるという自由度の高いメニュー構成は、温泉宿ではかなり珍しいスタイルだ。

 「小寒 雉始雊(きじはじめてなく)の頃」のお品書きは、前菜が「冬盛り」と名づけられた、「じゃがいものフリット」「マッシュルームのサブレ」「菊子(白子)とカラスミ」の3品だ。

 「佐渡のズワイガニの刺身」や「天然ブリのブリしゃぶ」といった海の幸も絶品だが、舟形マッシュルームやカブ、白ネギや白菜など、冬野菜が驚くほどおいしい。

 この宿では、独自に無農薬、有機栽培の農家とネットワークを形成し、その時々の質のよい野菜を仕入れることができるから、脇役になりがちな野菜も主役級の存在感を放っている。

 お酒にも力を入れていて、ワイン、日本酒ともに料理に合わせたペアリングのコースがある。この日の組み合わせは、米沢牛のステーキと、県内限定の銘柄「朝日鷹」。なかなか手に入らない希少酒だから、わざわざ出かける価値もあるというものだ。

山形座 瀧波

所在地 山形県南陽市赤湯3005
電話番号 0238-43-6111
料金 1泊2食1人 3万7,400円(1人宿泊 4万8,400円)~
http://takinami.co.jp/

雪化粧した「熊野大社」の厳かな景色

 山形座 瀧波から車で約15分、チェックアウト後に立ち寄ったのは“東北の伊勢”といわれる「熊野大社」。和歌山の熊野三山、長野の熊野皇大神社とあわせて「日本三熊野」と称され、東北の熊野信仰の霊場として信仰を集める神社だ。

 冬に雪化粧した神社は、厳かな雰囲気が一段と増している。

 唐破風、千鳥破風を茅で葺くのは山形県独自の建築様式だという。参道には樹齢850年ともいわれる大銀杏があり、本殿裏側の彫刻には「三羽のうさぎ」を探せば願いが叶うとも伝わる。

 「二羽までは見つけたけれど、三羽目が見つからない!」と苦戦する先客とともに、目を凝らして「三羽のうさぎ」を探してみたが、結構難しい。

 入り口付近にはコーヒーが飲めるカフェやドーナツ屋さんなどがあって、参拝後のカフェタイムにもってこいだ。

熊野大社

所在地 山形県南陽市宮内3476-1
電話番号 0238-47-7777
https://kumano-taisha.or.jp/kamisama/

野添ちかこ(のぞえ・ちかこ)
温泉と宿のライター/旅行作家

「心まであったかくする旅」をテーマに日々奔走中。NIKKEIプラス1(日本経済新聞土曜日版)に「湯の心旅」、旅の手帖(交通新聞社)に「会いに行きたい温泉宿」を連載中。著書に『千葉の湯めぐり』(幹書房)。岐阜県中部山岳国立公園活性化プロジェクト顧問、熊野古道女子部副部長。
https://zero-tabi.com/

Column

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