この第一製糖は1993年にサムスングループから分離することになり、97年に完全に独立して新たにCJグループとなる。そこにはサムスン創業者一族の後継者問題をめぐる背景があった。

 サムスングループを起こしたイ・ビョンチョル氏には、3男5女がいた。87年に他界したビョンチョル氏の後、同グループを継いだのは、そのうちの3男、2020年に亡くなったイ・ゴンヒ氏だ。長男のイ・メンヒ氏(故人)がサムスングループを継ぐことはなかった。

 長男が後継者とならなかったことは韓国では異例なことで、当事者たちも思わせぶりな言葉を残して物議をかもしたが、そのメンヒ氏の長男、イ・ジェヒョン氏(現CJグループ会長)が、サムスングループから分離しCJグループを作った。

 1960年生まれのイ・ジェヒョン会長はイ・ビョンチョル氏の男の初孫として、ビョンチョル氏に幼い頃から厳しく教えられ、「リトル・イ・ビョンチョル」といわれたという。

 

エンタメ事業に関わろうと考えるようになったきっかけ

 製糖会社だったCJグループが、傘下のエンタメ企業で名前を知られるようになったのには、ひとりの女性の存在がある。

 メンヒ氏の長女でジェヒョン氏の姉にあたる、イ・ミギョン同グループ副会長だ。

 イ・ミギョン氏の存在は、韓国のエンタメ産業、とりわけ、映像や音楽においては圧倒的なものだ。

 2020年にアカデミー賞を受賞した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(2019年)に投資したプロデューサー(肩書きは最高責任プロデューサー=CP)としても知られる。同作品への投資額は125億ウォン(約12億5000万円)。ちなみに同作品は日本だけで収益は45億円を突破している(2020年3月末時点)。それ以外にもポン・ジュノ監督の3作品に投資しており、『スノーピアサー』(2013年、米仏韓共同制作)には4000万ドル(約40億円)を投じている。

 このイ・ミギョン氏を支えているのが、彼女の弟イ・ジェヒョン氏だ。アカデミー賞授賞式の舞台に立ったイ・ミギョン氏は挨拶で、「共に夢を見て支援し続けてくれた弟に特別な感謝を伝える」と話し、その二人三脚ぶりが話題になった。

2022.01.30(日)
文=菅野朋子