80年代の残り香漂う田舎町で巻き起こる、冴えない高校生のひと夏の恋物語

◆『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』(2019年/Prime Video・Netflix)

 夏は儚い恋の季節でもありますよね。愛する者同士がすれ違いながらも、まるで花火のように瞬く間に燃え上がる、本作はまさにそんな“一夏の恋”を劇的かつスタイリッシュ、そして生々しく描き出した超クールな映画です。夏の夜に観ると、本作はお酒を飲んでいるかのように脳を心地よく揺さぶってくれるはずです!

 制作を手がけたのは、今映画界でその名を轟かせ、映画ファンの中でも熱狂的なファンを持つに至った人気スタジオ「A24」。時代の感覚を如実に捉え、様々なカルチャーの香りを放つ“ハズレなし”のセンスは、本作でも遺憾無く発揮されています。

 監督はなんと本作が長編デビュー作である新鋭のイライジャ・バイナム。キャラクターの心情変化に合わせてカメラアングルやカットを時にスロー、時にスピーディーに変えてくるその演出は、心地よいトリップ感を与えてくれます。

 物語の舞台は1991年の夏。最愛の父を事故で亡くした高校生のダニエルは、マサチューセッツ州・コッド岬という海辺の小さな町に住む叔母のもとへ訪れます。冴えない風貌で周りに馴染めないダニエルは、町一番のイケメンで不良のハンター、そして町一番の美女であるミステリアスな不良少女マッケイラと知り合ったことから、その運命の歯車を動かしていきます。

 本作の魅力を語る上で欠かせないのは、主演を務めた26歳の俳優、ティモシー・シャラメのセクシーな美しさでしょう。透き通るような白い肌と線の細い体、そして困り顔で儚げな顔立ち。

 人を惑わせる猫のような雰囲気を持った彼が、本作では野暮ったい少年からギラギラとしたティーンエイジャー、そして影をまとった青年へと縦横無尽な変化を見せています。

 そんなティモシー・シャラメを劇中で惑わす怪しげな魅力を放つのが、マイカ・モンロー演じるヒロインのマッケイラ。

 町中の少年たちから熱い視線を集めるクイーン・ビー(アメリカの学校カーストの頂点にいる女王蜂のような少女のこと)でありながら、その家庭環境に闇を抱えた傷つきやすい少女としての二面性を見事に漂わせています。

 そのほか、危険な不良でありながらダニエルに唯一無二の友情を見出していくハンターも、主役に負けず劣らずの魅力をほとばしらせています!

 そのビジュアルや時代設定にも注目すべき本作。昨今のハリウッドはNetflixの人気ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』に代表されるように、ネオンきらめく80年代カルチャーのリバイバルがブームとなっているのですが、本作はそんな“栄光の80年代の残り香”が香る90年代初頭が舞台。浮かれたカルチャーの火が微かに残った田舎町で輝くネオンライトは、主人公たちの燃え上がる恋と連動してギラギラと画面を駆け巡ります。

 しかし、クライマックスが近づくにつれて町にはどす黒いハリケーンが迫り、80年代の夏の熱気を吹き消していきます。夢から覚めるように大人になり、物語には“責任”がのしかかる……そんな夏の終わりの切なさまで味わわせてくれる傑作青春映画です。

◎あらすじ

『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』(2019年/Prime Video・Netflix)
1991年の夏。父を失い傷心の高校生ダニエルとその母は、マサチューセッツの海辺町コッズ岬を訪れる。夏の観光客でも地元民でもないダニエルの孤独を埋めたのは、皆の憧れの的である美女マッケイラと町一番のワル・ハンター、そして危険なドラッグの世界との出会いだった……。

2021.08.21(土)
文=TND幽介(A4studio)